2012/11/21(水)ニッコールレンズ読本の話

 家が狭いこともあり、古い書籍はひとにあげたり処分したりで、ほとんど残っていませんが、本棚に何冊かあるにはあります。その中に「ニッコールレンズ読本 Nikkor 3」というのがありました。第3集です。
 発行元は日本光学工業(現在はニコン)。初版は 1970 年 11 月、八版は 1974 年 3 月となっているから、手元にあるのは八版ですね。ちょうど Nikon F から F2 に替わっていく時代です。

 カメラ月刊誌と同じくらい厚みのある B5 版 204 ページ立てのこの本は非売品みたいで、価格の表示はありません。「ご愛用者各位」という別紙に「このたびは当社製品をお買いあげくださいまして誠にありがとうございました」とあります。結納返しの F2 にオマケとしてついてきたようです。(後から送られてきたかも)
 巻頭の作品の作者を見ると・・・ 木村伊兵衛・土門拳・佐藤明・篠山紀信・田中光常・小西海彦・森山大道・藤井秀喜と、豪華な顔ぶれです。さらに、細江英公・長野重一と続きます。当時のカメラ雑誌に出ていたプロ作家のほとんどが載っています。

 カラー印刷が雑で、色ずれしていて、ニッコールはまるで色収差のかたまりです。いくら無料でも交換レンズを買ってもらうための販促読本です。予算をケチったせいか、凸版印刷にしてはお粗末な仕事です。
 それでも購入者にこれだけ立派な体裁の本を配布するのは、現在のデジタル一眼レフでは考えられないサービスです。Nikon F/F2 は、当時の月収の何倍もする高額商品でした。カメラ雑誌に「ニコン貯金」なんてコマーシャルが載っていたくらいです。

 レンズ読本に載っている F マウントのニッコールは 39 種類です。現在よりも少ないラインナップですが、特殊なレンズが多いのが特徴です。画角が 180°を超えて 220°もあるフィッシュアイ・ニッコール 6mm F2.8 は、他社にはないレンズでした。カメラを普通に構えると自分の足が写ります。
 180°の円周魚眼レンズは、8mm F2.8 と、ミラーアップして使う 10mm F5.6 が載っています。10mm のほうは外付けの専用ファインダーを使います。さらに対角線魚眼の 16mm F3.5 もあります。新旧入れ替えの過渡期とはいえ、魚眼系だけでなんと4本! ニコンにしかできない芸当でした。

 シフトアオリのできる PC ニッコール 35mm F2.8 も他社になかったレンズです。いまではもっとワイドなシフトレンズがありますが、当時としては画期的なものでした。画角が足りない分をカバーするのに、逆方向にシフトした写真を2枚つなぎ合わせる方法を提案しています。
 このほかにもメディカルニッコールなど、一般ユーザーが使わない特殊なレンズがありました。ユーザーへの宣伝効果は、買いはしないけど、それが使えるカメラを持っているという満足感ですかね。
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