2017/08/07(月)水泳教室の水中写真へのこだわり

 卒業アルバムのサンプルを見せてくれた写真スタジオの先生は、研究熱心で凝り性です。アルバムの中に水泳教室のカットがありました。なんと水中で撮影しています。その辺の写真館で自分が水に潜って撮ろうなんてところはまずないでしょうね。

 そういえば、民間のスイミングスクールで水中写真を撮ったのがきっかけで、いまではそれ専門でメシを食っている写真屋の話を思い出しました。シュノーケルをつけて潜ったまま撮影します。背泳ぎでもないかぎり、水の中からでないと顔が写らないからね。一般の父兄では撮れない写真だから、結構売れるんだとか…

 卒業アルバムに収められた水泳教室のシーンで、水中の様子と地上の風景が一緒に写っているカットがありました。近頃はプールなどで手軽に撮れる防水カメラや水中ハウジングがありますが、水中と地上を同時に撮れる機種は少ないそうです。レンズの前のプロテクターに、ある程度の面積がないと、波で喫水線が上下してうまくいかないんだそうです。(なるほどね)

 「水中で撮れるカメラはいま3台ある」と言ってました。たぶん初めは普及型の防水カメラを買ったんだと思います。EOS-1D の水中ハウジングは高いし、水場での撮影はリスクが大きいからね。ところが水中と地上を同時に撮れないので、あれこれやってるうちに3台になったと推察します。これを撮ると思い込んだら諦めないのがこの先生のいいところです。

 スタジオのカメラスタンドにジナーの 8x10 が載せてありました。いまそれ用の引伸し機を自作中だそうです。簡易暗室に据えられた引伸し機は、どう見ても大きな寸胴鍋を改造したと思しき代物でした。8x10 のフィルムが挿入できるスリットが開いています。器用な人ですが、これでプリントするとなると、ちょっと試行錯誤しないといけないように感じました。

 8x10 の原板は一般的には密着焼きでプリントします。同サイズの六ッ切プリントにするわけです。大判フィルムの高画質を利用したいそうですが、引伸し機まで用意して、どのくらいの大きさのプリントにするつもりなんでしょう?(詳しくは聞かず)

 5x7 の引伸し機なら「超人先生」のところにありますが、 8x10 というのは見たことがありません。一筋縄ではいかないと思います。いま口出しすると否定的な意見ばかりになりそうです。この先生がどこまでやるか、次回のお楽しみですね。

2017/08/04(金)学校写真の著作権とスマホ文化

 久しぶりに尋ねた写真スタジオの先生は、写真のデジタル化には寛容でした。アナログ式もデジタル式も写真表現の手段のひとつに過ぎない、という考え方です。手段よりも写真の中身のほうが大事なんだとか…

 DP屋のオヤジと違って、写真館の先生方で写真のデジタル化に目くじらを立てる人は少なかったように思います。現像料ではなく撮影でメシを食ってたからでしょうね。この先生は自家処理をしてましたが、一般消費者へのDPサービスが目的ではなく、自分が撮影した写真の仕上りにこだわりがあるからでした。写真館のなかにはフィルム代とラボへの現像料の支払いがなくなって、デジタル化で恩恵を受けたところもあったようです。

 写真のデジタル化に寛容だった先生でも、最近のスマホですべて済ます傾向には抵抗があるみたいです。たいていのシーンはスマホでそれなりに撮れてしまうから、素人が安易に撮影できない写真を撮らないとメシの食い上げです。昔から写真の中身にこだわる先生だから、その点は元々百も承知です。ただ、学校の掲示板に並べておいたサンプル写真をスマホで複写して、ハイ終わり…という風潮は困ったもんだと言います。

 なかには写真(プリント)は要らないからデータだけ欲しい、という要望もあるそうです。いまどきの若い人は、プリントよりも画像データのほうが使い勝手がいいのかもしれません。父兄のなかには、街のDP店でプリントしたほうが安く上がると考える主婦感覚の人もいるでしょう。肖像権は写っている生徒にありますが、著作権は撮影したカメラマンにあります。その辺の認識が欠けている人が多いみたいです。

 画像データをクラウドに上げて、そこから注文を取る方法もあります。無料で手に入るのは画像サイズの小さいサムネイルだけだから、プリントにしても画像データにしても、代金を払わないと手に入らないシステムにすれば、スマホで複写して「ハイ終わり」はなくなります。撮影は幼稚園の先生がして、このやり方でプリントだけ請け負う写真店の話をしておきました。

 「自分が仕事をしているうちは他人に撮影を任すのは嫌だなー」と言ってました。そりゃそうでしょうね。自分で撮影しなくなったら、この先生の写真スタジオは終わりです。でもクラウドで注文を受ける方法は、今後の参考になったと思います。すぐに画像データが欲しい人は、決済システムを用意しておけばその場で入手できて便利です。写真は紙に焼かないとお金がもらえないと思うのは、ちょっと古い考え方ですね。

2017/08/02(水)想い出に残る独創の卒業アルバム

 何年かぶりに懇意にしていた写真スタジオにおじゃましました。たまに用事があると電話をもらっていたのですが、定期的に動静を知るのは年賀状の添え書きくらいです。ちょっと前に電話をもらったときは、「こちらの方面に来ることはないのか」と言ってたから、積もる話があるんでしょうね。

 やはり、ここ数年の間に両親が介護の末に亡くなったとか、経済面で身内の協力が得られず苦労したとか、波乱万丈の日々を送っていたみたいです。ようやく落ち着いたところだと言ってました。学校写真を抱えているから、家のことで自分が抜けると卒業アルバムに穴が開きます。手抜きをしない男だから、親の面倒を見ながら仕事をこなすのは大変だったと思います。

 最近制作した卒業アルバムを見せてもらいました。よくあるお定まりのパターンとは違い、生きた人間の学校生活を捉えた秀作でした。教師は一般的に生徒と一緒に集合写真に納まっているのが普通ですが、このアルバムでは一人ずつスナップの効いたポートレート風に撮られています。卒業アルバムと知らなければ、学校の先生とは思えない、あたかも個性豊かな俳優みたいな扱いでした。

 とはいえ、卒業アルバムの主役はやはり生徒です。少子化で一学年の人数が少なくなったこともあり、手書きの文章や習字・絵画のカットも含めて生徒一人に1ページを割いていました。ここでもスナップ風に撮られた生徒は皆、表情豊かに笑っています。日ごろからカメラマンとの人間関係ができているから撮れるカットです。

 最後の方の写真がランダムに並べられたページに、校長が生徒に卒業証書を渡すカットがありました。「そのアルバムをもらう生徒の写真なんだわ」というからビックリです。生徒一人ひとり別のページを作って差し替えて製本しているそうです。少人数で印刷部数が少ないから、製作コストはどうしても割高になります。その上に生徒ごとに原稿を作って差し替えるとなると、コスト的にかなり無理が生じます。

 でもこの先生はそんなことはお構いなしです。言い出したら聞かないのを印刷屋の担当者もわかっているから、「ま、なんとかしましょう」ということになるんでしょうね。それにしても校長が卒業証書を渡すシーンをひとり残さず全員撮るのは根気がいる作業です。失敗は許されないし、卒業式後にページを編集するのは時間的にも大変です。

 「この卒業アルバムをもらったときにみんなが喜んでくれたらいいんだ」と言います。写真を撮るのは技術じゃない、想い出を記録に残すひとの心のあり方なのだということをあらためて教えてもらった気がします。
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