2012/03/07(水)1万mm超望遠の口径は?

 前回は、口径 80mm で、焦点距離が 10000mm では、分解能の限界を超えていると指摘しました。では、10000mm の超望遠にふさわしいレンズの口径は、何 mm になるのでしょうか?
 前回同様、ニコン D800E(フルサイズ・3600 万画素)を基準に考えてみます。ただし、ローパスフィルターなどその他の要素は無視です。

 焦点距離 10000mm でフルサイズの撮像素子に写る範囲は、495×740 ″でしたね。4912×7360 ピクセルだと、1素子あたり 0.1 ″となります。2素子あればふたつの点を解像できるとすると、分解能 0.2 ″に相当する口径が必要になる計算です。

 分解能は、115.8 ″÷口径(mm)で求められます。「ドーズの限界」というやつです。分解能 0.2 ″を得るためには、レンズの口径は 579mm となります。デカイですね。天文台クラスです。
 口径が 58cm もあるレンズでは、自重で歪んでまともな像は結ばないかもしれません。反射式でも厳しいサイズです。

 ニコン D4 の撮像素子(フルサイズ・1620 万画素)だと、もう少し口径が小さく済みます。D800E より画素数が縦横とも 2/3 に減るからです。それでも 388mm ですが・・・
 コニミノのナナデジ(APSC・610 万画素)だとどうでしょう。口径は約 340mm と出ました。D4 とそんなに変わりませんね。ただし、焦点距離はフルサイズ換算で 15000mm 相当になります。これを 10000mm 相当に短く詰めると・・・それでも 20cm 以上の口径が必要です。

 市販の超望遠レンズで最も焦点距離が長いのは、反射式の 2000mm です。D800E につけた場合、1素子あたり 0.5 ″だから、分解能を2素子分で1″とすると、口径は 115.8mm となります。
 既に製造を打ち切っていますが、レフレックス・ニッコール 2000mm F11 の口径は、約 180mm でした。テレコンをかませるゆとりくらいはありそうです。

2012/03/06(火)超望遠レンズの分解能

 前回の例え話、口径 80mm の望遠鏡で合成焦点距離 10000 mm というのは、実はオーバースペックです。焦点距離の短いアイピースを使い、撮像面との距離を離していけば、拡大率はどんどん上げられますが、一定の線を越えたあたりから像がボケていきます。分解能の限界を超えるからです。

 天体望遠鏡の性能で重要なのは、倍率ではなく口径の大きさだということは、少し光学理論をかじったことのある人なら知っていると思います。メーカーが宣伝に使っている最高倍率がオーバースペックだということも・・・

 人間の眼で2つの点を分離して見ることができるのは、角度にして 60 ″(1度の 1/60)程度と言われています。一方、天体望遠鏡のカタログに使われている分解能は、「ドーズの限界」という経験則に基づく数値です。115.8 ″を有効開口径(mm)で割った値が分解能の限界となります。口径 80mm の対物レンズは 1.4475 ″です。

 これらの数値を元にすると、口径 80mm の望遠鏡は 42 倍程で人間の眼の限界と同じになります。実際には、像がだんだんボケていくのと、より大きく見られるのとの見合いで、この2倍から4倍程度の倍率までは有効とされています。口径 80mm なら 80~160 倍あたりが限度となります。ただし、これは眼視での話です。

 では、写真撮影の場合は、口径の何倍までの焦点距離が分解能の限界かというと、明確な答えを出すのはかなりやっかいです。経験則から割り出された「ドーズの限界」を基準にするとしても、撮像素子(あるいはフィルム)の解像力が絡んでくるからです。

 仮にニコン D800E(フルサイズ・3600 万画素)に、口径 80mm、合成焦点距離 10000mm のレンズをつけたとします。写る範囲は、角度にして 740×495 ″になるはずです。7360×4912 ピクセルだと、1素子あたりわずか約 0.1 ″です。
 2素子あればふたつの点を解像できるとして、1素子あたり 0.72375 ″で口径 80mm の分解能と同じになります。焦点距離に直すと 1382mm です。
 解像力を測る白黒の線は2素子あれば分離できますが、ふたつの白点を明確に分離するには、間にもう1素子必要との考え方もあります。この場合は倍の 2764mm となります。

 これらはローパスフィルターなどは無視した単純計算の数字で、あくまで参考値です。それでも口径 80mm のレンズで、合成焦点距離 10000mm は、分解能の限界を超えているのは間違いないようです。

2012/03/05(月)土星の輪が写る超望遠

 カメラの交換レンズは、焦点距離によって広角・標準・望遠に大別されます。焦点距離が短いほど広く撮れ、焦点距離が長いほど狭い範囲が大きく撮れます。前回話題の「虫の眼レンズ」は、この常識の外にある特殊光学系です。

 野鳥や天体の撮影に使われるコリメート法も特殊な光学系です。人間の目で望遠鏡を覗いて見えているなら、カメラでも同じように撮れるだろう・・という発想です。カメラのレンズが水晶体、撮像センサー(またはフィルム)が網膜の代わりです。

 対物レンズの焦点距離が仮に 1000mm あったとしても、直接焦点で土星の輪はハッキリとは写りません。目を凝らして、かろうじて耳がついているように見える程度です。アイピース(接眼レンズ)を使って拡大することで、ようやく土星の輪を撮ることができます。
 カメラの撮影レンズを省略して、アイピースだけで拡大する方法もあります。レンズが外せる一眼レフは、こちらが主流です。カメラ側のレンズ性能に左右されないシャープな画像が得られるからです。

 より高倍率を得る条件は、[1]対物レンズの焦点距離を長くする、[2]アイピースの焦点距離を短くする、[3]アイピースと撮像面の距離を遠くする、この3つです。
 眼視の倍率は、[対物レンズの焦点距離][÷接眼レンズの焦点距離]ですが、カメラ側のレンズを使わない撮影法では、アイピースは拡大投影用です。アイピースの焦点距離が短く、撮像面から離れるほど投影像は大きくなります。
 拡大率=[撮像面までの距離]÷[アイピースの焦点距離]-1
 この拡大率を対物レンズ(主鏡)の焦点距離に掛けたのが、合成焦点距離です。

 この方法を使うと合成焦点距離が 10000mm なんて超々望遠も可能です。ただし、F 値は[合成焦点距離÷対物レンズの口径]だから、口径 80mm の望遠鏡だと F125 になります。かなり暗いですね。
 それでもケンコーのピンホールレンズ(F250)の4倍の明るさがあります。高感度対応のデジカメと三脚があれば、日中の景色は撮れるでしょう。
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