2008/11/07(金)写真家と絵画

 臼井先生は二科会会員だけあって、絵画にも興味がありました。自身でも絵を描いています。

 写真と違って、絵の評価はそれほど高くなかったように思います。
 お弟子さんから「先生の絵ならもらってもいい」と言われて、「ぼくの絵はタダか・・」と落胆していたのを思い出します。お弟子さんは誉めたつもりだったんでしょうが・・・
 写真家の描いた絵は写真と同じに見られて、なかなか値段がつかないのかもしれません。

 絵が描けるかどうかは別にして、絵心のないひとは写真家にはなれません。
 「酸化セリウム」の先生の家には、無名に近い現代アートの作品が飾ってあります。撮影を頼まれたアーティストの作品です。
 気に入ったものがあると、作者から直接買っているようです。ギャラリーを通すと高いし、名が売れる前なら手頃な価格で入手できます。

 アーティストの側も写真の出来栄えにはシビアです。
 とくに立体的な現代アートは、展覧会が終われば残るのは写真だけなので、自分の気に入る写真を手に入れるために、写真家を指名します。単なる記録では満足できないからです。

 「酸化セリウム」の先生は、ギャラリーの仕事をしてずいぶん勉強になった!といいます。作品の後ろにいるアーティストとの緊張感がたまらない、とも・・・
 芸術家は、言い方は悪いけど、ネジが1本抜けたひとが多いから、気に入られる写真を撮るのは大変です。あるギャラリーのオーナーに言わせれば、「ネジの1本どころか2本も3本も抜けている」そうです。

 アート系の写真家もネジの2-3本は抜けていないと務まらないかもしれませんね。

2008/11/06(木)祭りの写真

 二科の臼井先生には、富士山の他にもうひとつ「見ない!」というジャンルがあります。「祭り」の写真です。
 なぜ祭りの写真を批評の対象にしないのかは、聞きそびれてしまいましたが、何となくわかる気がします。

 お弟子さんのなかには、ネイチャーフォトが好きなひともいます。
 鳥を写した写真が置いてあったので、「お客さんの写真ですか?」と尋ねたところ、「このひとは鳥一筋だから困ったもんだ」との返事。熱心なお弟子さんだけど、鳥の写真では批評のしようがないと、こぼしてました。

 被写体そのものが写真のすべて・・というのが嫌なんですね。作者の意図とか切り口みたいなものがないと、作品としての価値がないということのようです。
 祭りの写真は、演じている被写体が主人公だし、ただの記録写真でしかないという捉え方です。

 土門拳を師と仰いでいたから、写真がリアリズムであることを否定しているわけではなさそうです。シャッターを押すことと、自分がそれに介在することの意味に拘りを持っているんでしょうね。

 この先生に結婚式の写真を見せて、「どうですか?」と批評を聞くのは、やめといたほうがよさそうです。結婚式も祭りも似たようなイベントだから、ただの記録写真としてしか見てもらえません。

 結婚式で自分独自の切り口か・・・
 つまらないことを考えないで、花嫁が喜びそうなショットをたくさん撮ったほうが、世の中平和でうまく収まりそうです。

2008/11/05(水)富士山の写真

 二科の臼井先生には独特のポリシーがあります。「富士山の写真は見ない!」ということです。
 アマチュア写真家の指導には熱心でしたが、富士山の写真は批評の対象にしないという固い意思がありました。

 なぜ見ないのかを直接聞いたことがあります。「富士山の写真は雲の変化を捉えただけだ。題名を『雲』にしたほうがマシだ!」との返事。なるほどね。
 確かにアマチュアが捉えた富士山の写真には、そういうのが多い気もします。
 でも、北斎や広重の浮世絵に描かれている富士山は、駄作ではなくてアートだと思いますが、写真での表現はできないということでしょうか?

 浮世絵の富士山を見ていて、感じたことがあります。
 富士山を撮るには、正面からガップリ取り組むか、うーんと遠くに離してアクセントで扱うかのどちらかではないか?ということです。

 富士山は日本人なら誰でも脳裏に焼きついている山です。大女優と一緒で、被写体そのものが主役になります。誰が撮ったかは二の次で、自己表現の対象としては難しい被写体です。
 被写体に負けないだけの観察力と表現力が求められます。

 富士山は、画面の隅にチラリと写っているだけでも、強いインパクトがあります。強烈なスパイスみたいなもんですね。小さく扱うことで、スパイスの効き具合を調節するのもテクニックのひとつです。
 安藤広重の東海道五十三次には、このやりかたで描かれた場面がたくさん登場します。葛飾北斎も荒海の向こうに小さく富士山を配して、うまくスパイスを効かせています。

 このテクニックは結婚式の写真でも使えそうです。
 花嫁のアップもいいけど、たまには小さく扱って、スパイスが旨味に効いた写真を撮りたいですね。
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