2009/09/19(土)モノクロ印画紙を作る

 感光材料は工業生産品です。自分でフィルムや印画紙を作ることは、難しいというか、不可能に近いと思われています。
 モノクロの感光乳剤で「アートエマルジョン」という製品が、FUJIFILMから出ています。紙や固形物に塗って乾かせば、印画紙の代わりになります。これなら、自分で感光材料を作ることができます。

 まともな印画紙を作るのには適していません。市販の印画紙のほうが、安くて均質できれいなプリントができます。アートエマルジョンは、作品向けの感光材料です。
 紙にハケで塗ると、塗りムラが出て面白い表現になります。和紙に塗布してプリントしてから、扇子や提灯などに加工することも可能です。ベースの素材によっては乳剤が馴染まなかったり、あとで剥離したりするので、下塗り剤が別売で用意されていますが、万能というわけではありません。

 本物の乳剤だから、作業はすべて暗室で行ないます。コロジオンの湿板写真と違って、乾かしてから露光するというのが、長所でもあり欠点でもあります。一旦暗室から出る必要があるからです。(それとも乾くまで気長に待つか・・・)

 このアートエマルジョンを使って、巨大なキャンバスにモノクロプリントした人がいます。例の「酸化セリウム」の先生です。依頼主は、発案者の現代アート作家でした。この人の作品づくりのお手伝いです。
 壁一面にもなるキャンバス地に、乳剤を塗布するのは至難の技です。試しに、小ぶりのキャンバスにテスト的に塗ったところ、壁に貼った状態では、乳剤が重みで垂れることが判明しました。巨大キャンバスなら悲惨なことになりそうです。

 乾かしたあとで、どうやって露光するかも難題です。引伸機は使えないから、素材を壁に貼って、スライドプロジェクターで作家の原稿を投影することになりました。露光時間のテストをどうするか・・難問が続きます。
 現像・定着液はハケ塗りで何とかなるとして、水洗がきちんとできません。近くに洗えるような川はないし・・・
 結果は、現像ムラ・定着ムラで、惨憺たるものだったそうです。しかも展示中に作品の状態が刻々と変化します。水洗不良です。QWを使ってもカバーできなかったみたいです。

 失敗に見えたこの「作品」は、現代アートの作者から絶賛されたと言います。塗りムラに加えて、現像・定着ムラによる独特のテクスチャーや、とくに展示中に変色が徐々に進行したことが、絵の具では得られない素晴らしい結果との評価でした。

 徹夜して作りあげた思い入れでしょうか? それにしても、現代アートの芸術家って、相当 変わってますね。
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