2008/10/02(木)緑川流テクニック

 前述の写真家・緑川洋一氏は、歯科医師をしながら地元・岡山を中心に創作活動をしていました。「山陰の植田正治、山陽の緑川洋一」と言われ、写壇では著名です。
 「創作」と呼ぶのにふさわしい科学的なテクニックに長けた写真家でした。

 写真家仲間の林忠彦氏と植田正治氏には、お会いしたことがありますが、緑川洋一氏にはとうとう会う機会がないまま2001年に他界されました。
 理系らしく、光学理論に裏打ちされた写真のテクニックは、大変参考になりました。作品自体も素晴らしいものです。

 有名なのは、RGBの原色フィルターを使った多重露光の写真です。こよなく愛した瀬戸内海を独自のイメージで表現しました。いわゆる三色分解の技法です。
 きらきら輝く瀬戸内の海を赤・緑・青の三色にわけて多重露光すると、光が重なったところは白く輝き、重ならないところはそれぞれの色で発色します。
 シルエットの灯台は動かないので、そのままシルエットとして写ります。七色に輝く海とのコントラストが実にシュールできれいでした。

 三色分解には、通常バンドパス(BP)フィルターを使います。理屈の上では、RGBの三色を均等に多重露光すれば、静止した部分は普通の発色になるはずです。
 でも、実際にはそうはなりません。必ず色が偏ります。緑川氏は、その点も熟知したうえで撮影していたと推察します。苦労話には、その辺のところは出ていなかったから、単にテクニックだけ真似して撮っても一緒にはなりません。

 林忠彦氏は、「緑川はすぐに小細工を・・」と茶化していましたが、内心ではその科学的なテクニックに一目置いていたんだと思います。

2008/10/01(水)写真家とテクニック

 すでに亡くなられましたが、写真家の林忠彦氏(愛称チューさん)に、ストロボを離して使うテクニックの写真を見せてもらったことがあります。写真集のために長崎でロケしたときの写真です。

 夜の外人墓地で、十字架の墓標をストロボで照明していました。シャッターを開けっ放しにしておいて、次から次へと墓標を照らしていきます。ストロボは、もちろん助手が焚いてます。

 シュールでなかなかいい写真でしたが、写真集「長崎・海と十字架」には載せませんでした。苦労して撮ったのに、もったいない感じです。
 理由を聞いたら、「あまりテクニックに走ると、緑川洋一の写真みたいになるからなぁ」との返事。敢えて外したんだそうです。

 緑川洋一氏は、地元岡山を中心に活躍した写真家(兼歯科医師)です。RGBフィルターを使って三色分解した瀬戸内海の写真は有名です。
 仲のいいライバル同士でしたが、変なところで意地を張ったようですね。

 林忠彦氏の写真集「長崎・・」には、定番の石畳の写真が載っています。雨にしっとり濡れた石畳です。
 緑川洋一氏が長崎を訪れたときは、あいにく(?)晴天で石畳は乾いていたそうです。でもやはり石畳は雨に濡れていないと・・と、坂の上から下へと水を撒いていきました。撮影位置に戻ってきたときには、石畳は乾いていたとか・・・

 「緑川はすぐに小細工をするからなぁ」とチューさん。自分の写真は、雨が降るまで待って撮ったそうです。テクニックだけでは自然に勝てない、というスタンスです。
 二人ともすでに鬼籍に入られましたが、テクニックに対する考え方の違いが、それぞれ作品に現れています。「オレ流」を貫いた写真家でした。

2008/09/30(火)ストロボを離して使う

 夜間の撮影で、ストロボをカメラから外して離れた位置から焚くことがあります。カメラ位置から光らせるよりも、よい結果が期待できるからです。

 毎年、桜の季節になると、満開の桜の木の下でストロボだけ手に持って、移動しながらパカパカ焚いているひとを目にします。
 離れたところに三脚で固定したカメラが置いてあり、バルブでシャッターを開けっ放しにしています。夜だから、ストロボを光らせるたびにその部分が露光されます。

 ライトアップされた桜だと、電球照明とストロボ光の色温度の違いで、シュールな色彩の写真が撮れます。
 ストロボにアンバー系のフィルター(LBA12)をかけて、ライトアップの電球照明と色温度を合わせる方法もあります。
 どちらがいいかは、表現意図によります。カメラのホワイトバランスの設定で、自然な感じにもシュールな感じにもできます。設定を変えて撮ることをお奨めします。

 風のある日なら、電球照明の部分がブレて、ストロボ照明の部分が静止するので、動きのある表現になります。ブレたり流れたりする表現は、静止した部分があって、はじめて生きます。静と動のコントラストです。

 レンズの光軸に対して横からの照明は、花びらに立体感が出ます。カメラ位置から大光量のストロボを焚くよりも、いい写真になることが多いですね。
 被写体がカメラと数十メートル離れている場合は、カメラ位置から焚くストロボは、かなり大光量のものが必要です。途中に障害物があると、そちらが目立ってしまいます。
 助手がいるなら、やはり被写体のそばまで行って焚くのが一番ですね。
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