2008/05/13(火)カールツァイスの話4

 カメラやレンズのブランドは、どこか党派みたいなところがあって、ニコン党とかキヤノン党とか、支持勢力が分かれます。
 カールツァイスの場合は、党派というよりは宗派に近いですね。「ツァイス教」です。

 私も「信者」のひとりですが、盲目的な信奉者ではありません。目覚しい技術革新のなかで、古いレンズのなかにイマイチのものがあるのは、素直に認めないとね。
 ライカも含めて、ドイツの古いレンズには個性があります。クセといってもいいかもしれません。「このレンズはモノクロでないと・・」「Fいくつで○メートルの距離で撮ったときのボケ味が・・」とかいう能書が聞かれる類のものです。いわゆるレンズの「味」ですね。

 日本のレンズが解像力一本だったころ、千葉大工学部とカメラ毎日が組んで、「カメラ・レンズ白書」という別冊をよく出していました。ツァイスが持ち込んだコントラスト重視の考え方が認められ、カメラ毎日が廃刊になってからは姿を消しましたが、長年にわたって良いレンズの指標になっていました。
 廃刊前に載っていたツァイスレンズの評価は、あまりパッとしなかったですね。

 Distagon T*25mm F2.8の評価は、レンズ白書では「周辺ダダ落ちの旧設計レンズ」なんて書き方がされてました。ヤシカの『Tスターレンズの世界』には、別の表現で紹介されています。抜粋してみると・・・
 「このレンズの特長は、中心部のコントラスト、解像力が開放絞り時に非常に良く・・くろうと好みのする味わいのあるレンズ・・」だそうです。
 言い方が違うだけで、いっている中身はどうも一緒みたいですね。信者であるかないかの違いです。

 中判カメラのハッセルブラッドは、カールツァイスのレンズを採用しています。ローライと違って、T*コーティングのマークが入っています。
 500CMまでのレンズは、やはりクセが強かったようです。ひとによって、広角系はいいがゾナーはちょっと・・とか、いろいろ評価が分かれました。ツァイスだからいいに決まってる!という信者もいたけどね。

 レンズのクセとか味は、湧き水みたいなもので、どれが美味いかはひとそれぞれです。硬水も軟水もあるしね(温泉も!)。
 すべてのレンズが純粋な真水だったら、何か味気ない気がします。

2008/05/12(月)カールツァイスの話3

 自社の製品検査に絶対的な自信を持っているカールツァイスですが、バリオゾナーの生産が需要に追いつかないので、日本でのライセンス生産を認めます。
 当時はヤシカがカメラを生産し、レンズの販売権を持っていたので、多分、富岡光学が組み立てを担当したと思います。

 スペックを70-210mm F3.5から、80-200mm F4に変更したこともあり、生産量は大幅に向上しました。価格も安くなりましたね。
 検査は、ツァイスの技師が日本に駐在して行なったので、検査票も付いていました。それ以降、CONTAX用のレンズは、順次日本で生産されるようになりました。
 ツァイスとしては、渋々ライセンス生産を認めた形ですが、その後ズームレンズが主流になったので、結果的に時代の流れにとり残されずに済んだわけです。

 初期のバリオゾナーの70-210mm F3.5というスペックは、立派なものでした。きっちり3倍ズームでコンスタントFナンバーです。しかも、マクロ比率は1:2でした。
 当時、ズームレンズ普及の牽引役だったタムロンの技術者が、「これじゃあ生産量が上がらないのも無理ないね」なんて妙に感心してましたね。ちなみに、タムロンが対抗して出したSP70-210mm[52A]は、F値変動のF3.5-4で、マクロ比率は1:2でした。
 わずかのスペック差が、生産コストや生産量に大きく影響します。

 コンピュータの発達で計算速度が飛躍的に向上したことが、ズームレンズの高性能化につながりました。手計算でやったら数万年かかるレンズ設計が、数ヶ月に短縮できるからです。非球面レンズや特殊低分散ガラスの利用は、コンピュータ抜きでは考えられません。
 実用レベルの高画質と低価格の実現で、ズームレンズ全盛時代を迎えたわけです。

2008/05/11(日)カールツァイスの話2

 工場視察に行った日本人のディーラーに、カールツァイスの人間がこぼしたグチは他にもあります。

 「日本人はわずかなホコリが入っているだけでレンズを返品する」ということです。ツァイスの検査は厳しく、少しでも基準に達しないと製品として出荷しません。一旦検査を通った製品には、絶対的な自信を持っています。
 ホコリやゴミが入っていようが、自分達の基準をクリアした以上は良品である・・という姿勢です。

 日本からの返品があまりに多いので、仕方なしに、検査のときなるべくホコリの少ないものを選り分けて、日本に輸出していたようです。それでも、些細なことで返品になると、再検査してヨーロッパの国に出荷していたとか・・・
 ヨーロッパでは、カールツァイスのブランドは、絶大な信頼を獲得しています。日本人は「木を見て山を見ない」民族だと思われていたようですね。

 これと同じ話をドイツ人の大学教授から聞いたことがあります。
 この先生は光学製品が好きで、カメラや望遠鏡をたくさん持っていました。見せてくれた天体望遠鏡は、マクストフ型のもので、外観はかなり磨り減って使いこまれたものでした。
 「日本人はすぐ外観でものを判断するが、この望遠鏡はとても高性能で良く見える」と自慢してました。見た目よりも実用性を重視する考え方です。

 当時日本で販売されていたツァイスのレンズには、発売元の保証書とツァイスの検査票がついていました。日本人は保証書を重視しますが、本当は検査票のほうが重要な意味を持っています。
 もし万一、クレームが発生してツァイスの検査基準をクリアしていなかったら、検査票にサインした技師は減俸なんだそうです。鉛筆でクシャクシャと書かれたサインの重みを感じましたね。
OK キャンセル 確認 その他