2008/06/12(木)モノクロは水洗が命

 モノクロームの銀塩写真は百年以上の耐久性がある・・といいましたが、数十年で変色した写真をよく見かけます。大抵は、きちんとした現像処理をしていないプリントです。

 昔の白黒印画紙は、「バライタ紙」といって、ベースが紙でした。現像処理液が染み込むので、水洗をきちんとしないと定着液が残って変色の原因になります。モノクロプリントは「水くい虫」でした。
 現在の白黒印画紙は、RC(レジンコート)とかWP(ウォータープルーフ)とかいう、薬液の染み込まないタイプに変わっています。水洗は短時間で済むようになりました。カラーペーパーも同じです。

 学生時代に焼いたプリントは、変色せずに残っています。「酸化セリウム」の先生は、「お前はきちんと処方箋どおりにやっていたからなぁ」と感慨深げです。この先生、当時は結構いいかげんでしたからね。
 いまでは、広い暗室に全紙まで水洗できる専用の水洗器を設置しています。きっと懲りたんでしょうね。

 何十年か経って、はじめて実感できることが、世の中にはたくさんあります。公害や地球温暖化がそうですね。少しくらい・・という甘えが積み重なって、取り返しがつかなくなってから、あわてて対策を講じても、手遅れのことがあります。

 退色や変色してしまった写真を修復するのは、大変な手間と技術が必要でした。デジタル画像処理技術が進んだことで、写真の修復は比較的簡単にできるようになりました。
 デジタル技術の発達で衰退した銀塩写真をデジタル技術が救う・・・因果ですね。カラー写真はデジタル画像から銀塩プリントできるけど、モノクロ写真のデジタルデータは引伸機にはかかりません。

 カラーペーパーでモノクロプリントするのは、ちょっと抵抗がありますね。

2008/06/11(水)モノクロ写真は不滅

 これから写真の世界に入ってくる若い世代が気の毒なのは、モノクロームの銀塩写真を体験する機会が少ないことです。
 暗室にこもって徹夜でプリント・・なんて楽しみは、もう経験できないかもしれませんね。

 好きな写真家の作品で記憶に焼きついているのは、大抵モノクロ写真です。数年前に、品川にあるキヤノンのギャラリーで、石元泰博(いしもとやすひろ)の写真展をやっていました。1950年代のアメリカを表現した「シカゴ、シカゴ」は有名です。

 石元泰博は、バウハウスの流れをくむ造形写真家として知られています。「桂離宮」や「伊勢神宮」を捉えた造形美は、氏の独特の切り口です。「あと1センチでもカメラを動かしてみろ!」といわんばかりの絶妙なカメラアングルと、洗練された構図が好きですね。
 キヤノンのギャラリーで堪能させてもらいました。

 泰博の写真は、ほとんどがモノクロの作品ですが、「曼荼羅」はカラーです。胎蔵界と金剛界の両界曼荼羅を題材に、氏独特の切り口で模写しています。
 当時、「あんなのはただの複写だ!」と揶揄する声もありましたが、写真技術のなかで一番難しいのは複写だということを知らないひとたちですね。

 キヤノンSタワーに来たついでに、ショールームも覗いてきました。当時「エプソンに追いつけ追い越せ」の勢いで力を入れていたインクジェットプリンターが、ズラリと展示してありました。
 説明員のお姐さんに、「染料インクはすぐ退色するからなぁ」と水を向けると、「デジタル画像は不変ですから、色褪せたらもう一度刷り直してもらえば元の鮮やかさが甦ります」との返事でした。
 さすがに一流企業の説明員は、よく教育されてますねぇ。

 数十年の歳月を経て、色褪せることもなく飾られていた石元泰博のオリジナルプリントを見たあとだけに、デジタルプリントのはかなさを痛感しました。

2008/06/10(火)モノクロ写真と暗室

 銀塩のモノクロ写真を処理するためには、暗室が必要です。フィルム現像はダークバッグで詰めて明室でもできますが、プリント作業は暗室で行います。
 最近では、写真愛好家でも自前の暗室を持っているひとは、珍しくなりましたね。

 このブログでたまに登場する「酸化セリウム」の先生は、自宅に広い暗室を持っています。引伸機は3台置いてあります。メインはライツ社のフォコマート2cです。モノクロ愛好家には垂涎の名機ですね。
 酸化セリウムを使ってコンデンサーレンズを磨く・・といっていたのは、ダーストの138です。機関車みたいに2本レールの上に乗っているラボ機です。もう1台はオメガでしたかね。

 引伸機だけで一体いくらするんだ!という内容ですが、廃棄処分品やオークションの出物なので、大したお金は使っていないようです。捨てる神あれば拾う神ありで、必然的に価値のわかるところに集まってきたわけです。
 私の持っていた全紙のバットや現像タンクも、この先生のところに預けてあります。家族の目から見るとオヤジの次に邪魔なものでも、この先生にとっては宝の山です。

 広い暗室に立派な設備を持つ先生の悩みは、モノクロ印画紙が手に入りにくくなったことです。大好きだったアグファのブロビラがなくなったときは、落胆してましたね。コダックがモノクロ印画紙の製造を止めたときは、「自分は使ってないから」と平静でしたが・・・
 「現像液は単薬を調合すればいいが、印画紙を作るのはちょっとなぁ」と嘆いてました。

 そんな親を尻目に、写真学校に行っている御曹司は、デジカメとインクジェットプリンターでモノクロ写真に没頭しています。このひとには暗室は必要ありません。
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