2012/08/31(金)低価格でシャープなレンズ

 一眼レフなど「写真機」は、昔から耐久消費財のステータスシンボルみたいなところがあって、値段が高いほど高級でいいカメラとの認識が根強い商品です。古くはニコン F、キヤノン F-1 などのフラッグシップ機が憧れの的でした。
 当然、レンズも開放 F 値が小さい明るいレンズが高級でよいとされてきました。感光材料の感度が低かったのも関係していたようです。

 仮に 50mm の単焦点レンズに F1.4 と F2 の2種類があって、F1.4 のほうを買ったとします。一定期間に撮影したコマのうち、F2 よりも開放側で撮ったのが何コマあるか調べてみると、結果的にはほとんどないかもしれません。
 多くの人がプログラムオートで撮影している現状では、日中屋外の撮影で絞りが開放になるケースはまず皆無です。室内など暗い場面では想定できますが、ストロボを自動発光にしていれば開放絞りになる確率は下がります。ましてやデジカメの場合は感度も自動的にシフトします。開放値が F1.4 でなく F2 だったとしても、写らないケースはまずないでしょう。

 つまり、F1.4 の開放値が活きる場面は、あまりないわけです。わずかな違いのために 1.5 倍の費用をかけるのは、無駄な気がします。それでも明るいレンズが売れるのは、カメラが「持ち物」であるからだと思います。
 目的地に行くのにリッターカーでも3ナンバーでも結果は同じことですが、高級車でないと気が済まない人はいます。それと同じですね。

 デジカメになってから、手ブレ防止技術は格段に進歩しました。高感度化も進んでいます。フィルム時代のカメラと比べて、絞りで 4~5 段分は有利になっているはずです。
 もし、単焦点標準レンズの開放 F 値が F4 程度でよければ、高解像力のシャープなレンズが、格安の価格でできるはずです。そういうのがちっとも出てこないのは、それでは商売にならないとメーカーが考えているからでしょうね。

 ミラーレス機のユーザーには、レンズ交換ができるコンデジ感覚の人もいます。交換レンズが数千円とか1万円程度で買えれば、レンズ交換を楽しむ人がもっと増えると思います。レンズがちっとも売れないと嘆いているのは、手軽に楽しめるシステムになっていないからでは?

2012/08/30(木)大口径レンズの収差

 焦点距離 50mm 前後の単焦点レンズが、標準レンズとして一眼レフにセット化されていた時代から、開放 F 値の小さい明るいレンズが重用されてきました。F1.8 や F2 よりも F1.4 のほうが、高級でよいレンズという捉え方です。
 F1.7~F2 クラスが2万円とすると、F1.4 は3万円くらいしていました。値段でいうと確かに「高級」ですが、写りがよいかというとちょっと疑問でした。明るいレンズほど収差が大きく、補正するのにコストが掛かります。絞り開放での描写は、一般的に暗いレンズのほうが優秀でした。

 中学生のころは、星の写真をよく撮りました。三脚に固定して長時間露光します。長時間といっても日周運動で星が流れないようにするから、30 秒以内の露光です。
 先輩の勧めで PENTAX SP の 50mm F1.4 付を買ったのですが、これは失敗でした。絞り開放で撮ると、画面の周辺部では明るい星が点になりません。鳥が飛んでるような形に写ります。非点収差やコマ収差の影響です。

 55mm F1.8 にしておけばよかったですね。少しでも明るいほうがいいかと、無理して F1.4 にしたのがアダでした。先輩は星の写真など撮ったことがないから、レンズの収差がこれほど影響するのを知らなかったみたいです。
 風景など普通の被写体を撮るぶんには、全く問題のないレンズです。ファインダーは明るく見えるし、暗いところでは少しでも明るいレンズが有利でした。

 1絞り絞って F2 にすると改善されますが、まだ収差が目立ちます。F4 まで絞ると、ようやく使えるレベルになりました。ただし、三脚固定では暗い星まで写りません。そこで赤道儀式の望遠鏡に載せて、ガイド撮影することにしました。

 アイピースに十字線を張り、星を少しぼかして十字線から外れないように微動装置を動かします。開放から3段絞っているので、息をこらして 10 分以上ガイドします。当時は自動追尾するモータードライブのことを「運転時計」と呼んでいましたが、中学生ごときが買える代物ではなかったと記憶しています。

 天文班の連中は固定式で撮っていたので、ガイド撮影した写真を見てビックリしていました。目に見えない暗い星まで鮮明に写っていたからです。絞らないと使い物にならないレンズだったのが怪我の功名で、ガイド撮影のテクニックが身につきました。そういう意味では F1.4 にして正解だったかもしれません。

2012/08/29(水)単焦点レンズの復活

 撮像センサーの高画素化で、単焦点レンズが注目されるようになりました。ズームレンズよりも解像力が高いのが理由のひとつです。並みのズームだと撮像センサーの解像力よりもレンズの解像力のほうが劣ることがあります。
 ピクセル等倍まで拡大すると、レンズのアラが目立ちます。とくに周辺部では顕著です。これを「レンズの味」と捉えるおおらかな人たちばかりならいいのですが・・・

 一般的に、ズームレンズで全焦点域が収差ゼロということは、まず考えられません。ワイド側は樽型、望遠側は糸巻き型の歪曲収差があるのが普通です。周辺光量の不足もワイド側で顕著です。色収差も単焦点レンズに比べて大きいのが普通です。
 こうした欠点を補うだけの利便性があるから、ズームレンズが主流になったと思います。ある程度の画質であれば、レンズ交換せずに(自分が動かずに)画角が変えられるほうに魅力を感じる人は多いはずです。

 フィルムの常用感度が高くなったのもズームの普及を後押ししました。それまで ISO 100 程度だったカラーネガは、ISO 400 が主流になりました。絞り値でいうと2段分です。ISO 100 で F2 と、ISO 400 で F4 は、同じシャッター速度になります。
 もっとも ISO 400 が主流だったのは、日本国内の話です。海外では ISO 200 がよく使われていました。絞りで1段分です。400 に割高感があったからだそうですが、逆輸入を防止する思惑から、メーカーの営業施策だったという指摘もあります。

 デジカメの高感度化が進んでいます。ISO 3200 が常用だなんて、フィルム時代には考えられない事態です。では、大口径に有利な単焦点レンズは、もう出番がないかというと、ここへきて注目されるようになりました。冒頭で触れた高画素化です。レンズの性能がシビアに評価される時代の到来です。
 レンズは開放 F 値が暗いほど画質が高く、設計が簡単で低コストが図れると言われています。高感度化がレンズの低価格化につながるかどうかは、メーカーの営業施策次第でしょうね。
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