2011/07/16(土)呉服屋のスタジオ(その後)

 呉服屋の元締めをやっている社長とは腐れ縁で、いままで何軒も同業者を紹介してもらいました。写真スタジオなしでは商売できない時代になったみたいです。

 その都度、スタジオ設備の専門家に紹介したのですが、彼は技術者肌で、営業向きではありません。口は私のほうが巧いし、写真の知識も少しはあるから、段取りはこちらでつけて、設計施工は彼の担当です。
 とはいっても彼は一人でやっている関係上、工事のときは手伝いに馳せ参じることになります。
 
 こちらも写真撮影に関しては興味があるので、工事を手伝わせてもらって、いい勉強になりました。スタジオ設備をした呉服屋さんは、皆さん感謝してくれました。
 呉服屋さんは、写真撮影に関しては全くの素人です。それをいいことに、法外な価格でスタジオ設備を納入する業者もいたようですが・・・

 何軒か付き合った呉服屋さんを見ていて、ちょっと違和感を持ったことがあります。彼らは根っからの商売人で、写真館のように世代を越えて繋がりを継続していく意識が薄いことです。
 七五三の子が二十歳になるまで何年あるんだ!といった感覚です。写真館でそんなことを考える人は少ないと思います。

 「世代を越えてつながっていくのが記念写真の本質だ」と、ことあるごとに説いて回ったのですが、理解してくれた人は一部だけでした。
 きもの文化の継承だとか、和の文化の発展だとか、もっともらしいことをおっしゃる割には、根底にあるのは目先の売上利益です。明日落とす手形のことばかり考えていたのでは、文化の継承はおぼつきません。

 スタジオ設備の設置を頼まれた呉服屋さんには、いずれ再訪してその後の経緯を確めたいと思います。1軒だけは倒産して無縁となってしまいましたが・・・
 もし設備を撤去するときに依頼があれば、手伝ってやってもいいと思っています。納期や決済時期がズレて迷惑したこともありましたが、関わった以上は知らん顔はできません。せめてものお見舞いです。

2011/07/15(金)呉服屋と写真館のコラボ

 その道のプロが協力し合うのを理想とする写真スタジオの先生は、呉服屋に頼まれて、振袖の出張写真を撮っていた時期がありました。10 年以上続いていたそうです。

 適当な妥協を許さない先生と、商売本位の呉服屋とは次第に意見の違いが重なり、その関係は破綻することになります。ほかの写真館と契約するようになってからは、その呉服屋とは疎遠になっていきました。

 「第2サティアン」に預かってもらっていたスタジオ機材は、実はその呉服屋から頼まれたものでした。契約していた写真館を袖にして、自前で写真スタジオを運営したいということでした。知り合いの呉服関係者からの紹介です。

 本物志向の先生には、事前に報告しておきました。何でも内製化して自分の利益にしようという姿勢は、いずれ本業をダメにするとの見解でした。おっしゃる通りかもしれません。自分とはもう関係がないから、好きにすればいいと言ってました。

 先生の予想通り、その呉服屋はしばらくして破綻します。知り合いの「元締め」から連絡がありました。日本全国どこでも、呉服業界に何か異変があったら 24 時間以内に情報が入るという事情通です。
 「その後、関係はないか?」との通報でした。紹介した手前、気になったみたいです。もちろん関係はありません。すぐに本物志向の先生に連絡を入れました。

 「やっぱりね」というのが先生の第一声でした。本業以外のことで欲を出して、ほかの領域に中途半端に手を出すと、肝心の本業がダメになるとの言い分です。彼らしい分析ですね。

 気を遣って連絡してくれてありがとう・・と言ってました。潰れた呉服屋の社長には一目置いていたから、これからのことを心配していました。「ざまぁ見ろ」と言わないところが彼のいいところです。

2011/07/14(木)趣味で固めたスタジオ

 車ごと撮れるスタジオを造った先生は、何事にも本物志向で、適当にごまかすのは嫌いな性分です。ブランド品や衣装について語らせたら、なかなかうるさい男です。
 いい仕事をするためには、その道のプロが協力するのが最善というのが持論で、七五三や振袖などの衣裳は一切置いてありません。衣裳は専門店に任せればいいというスタンスです。

 先生も奥さんもメイクをさせたら玄人はだしなのに、ここ一番の撮影には美容師を呼んでいます。理由を聞いたら、「プロにしかできないことがあるんだ」と言ってました。
 何でも器用にこなす人だから、付き合う職人さんはその道のプロでないと務まりません。自然とそういう人たちが集まってきます。

 アンティーク家具が趣味で、スタジオの什器はすべて本物です。自分だけ楽しむのはダメで、お客さんが利用する空間に置かないと意味がないんだそうです。もちろん、偽物は一切ご法度です。
 自宅にもいくつか置いてありますが、そこも撮影スペースとして使っています。だからお金をかけられるんだとか・・・

 若くして独立してから、贅沢を排して自分でできることはすべて自前でこなしてきた人です。前のスタジオの内装は、この先生の手による自作でした。入口の扉も自分で作ったというから器用な人ですね。取っ手は台所に使うステンレス棒でした。言われなければわかりませんでしたが・・・

 お客さんにも我慢をして貰ったから、新しいスタジオは満足して貰える空間にしたかったそうです。新たに借金して、立派なスタジオを造りました。内装のほとんどを自分でやったというから、その信念は半端じゃないですね。
 工事に来た左官屋さんに、「アンタは前、何屋さんだったの?」と聞かれたそうです。「最初から写真屋だよ」と答えたら、「??」だったとか・・・

 このスタジオの内装工事をしたのがそこの先生だと言っても、信じる人はいないでしょうね。立派な石造りのスタジオです。
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