2011/11/15(火)人間の眼により近く

 写真が長年かかって目指してきたのは、人間の眼で見た世界をそのまま再現することでした。写真がアートでありうるかどうかは別問題として、写実と記録が写真の本質のひとつであることに異論はないと思います。
 記録媒体が銀塩からデジタルに変わっても同じです。フィルムが進化してきた道を撮像センサーも歩んでいます。

 やっかいなのは人間の場合、記録媒体が脳だということです。記憶としてしか残っていないから、忠実に再現された写真を見てもそれが正しいと感じるかどうか、はなはだ怪しい世界です。人の視覚は錯覚の塊だし、記憶は印象としてしか残っていないからです。

 リバーサルフィルムに、ナチュラルカラーとかイメージカラーといった区分があるのはご存知だと思います。FUJIFILM のサイトを見ると出てきます。その中にリアルカラーというのがあります。
 センシアⅢがその代表格です。医療や学術関係の記録写真によく使われてきました。このフィルムで風景を撮ると、何の変哲もない平凡な写真に仕上がります。

 アマチュア写真家には評判のよくないフィルムですが、もう一度同じ条件の現場に行って原板と見比べると、確かに見た通りに近い描写になっているのがわかります。記憶に残っているイメージは、現実の世界とはかなり違うみたいです。
 朝日を受けてほんのり赤く染まった富士山を撮るときは、5% 程度のマゼンタフィルターをかけると、記憶に残る印象に近くなると言います。そうしないと、「もっと赤かったのに・・」という不満が募ります。

 その場で撮影結果が確認できるデジタル写真は、プレビュー画像を見て、「うん、見たとおりだ」と妥協してしまう可能性があります。こういう使い方をしていると、いつまで経っても感動が甦るような写真が撮れない気がします。その場で結果が見られるのも良し悪しです。

 デジタル写真は、RAW データを現像するときに、ある程度の調整ができます。自分が撮った写真は、記憶を頼りに後から自分で「現像」するのが、人間の眼で見た感じに近づける最善策かもしれません。

2011/11/14(月)フィルムの「裏面照射」

 デジカメの撮像センサーで裏面照射型が話題になっています。従来の方式では、上層にある回路部が邪魔して、センサーが受け取る光の量が減るのが欠点でした。裏面から光を受けることで、光のロスがなくなり実効感度が上げられます。

 仮に FOVEON のような三層構造のセンサーが、裏面から光を受ける方式に変わったとしても、単純な裏返しにはならないと思います。感色層が上から BGR の順は同じはずです。
 では、フィルムを裏返しにして露光したらどうなるのでしょう? この場合は、感色層は RGB の順に逆転します。どんな画になるなるんでしょうね。

 結論から言うと、赤感層だけで写真を撮ることになります。各感色層の間にはフィルター層があって、光は逆方向には透過しないからです。
 フィルムの裏面にはハレーション防止層があります。フィルムベースまで達した光が、反射して感光層に戻らないようにするためです。フィルムの裏が黒くなっているのがこれです。したがって、裏から露光する場合は、相当な光量を与えないと何も写らないことになります。

 そんな突飛もない実験を実際にやった人がいます。「酸化セリウム」の先生です。芸術学部の卒業制作だったと思います。パネル貼りされた作品は、オレンジ色の世界でした。
 完全に真っ赤でないのは、わずかに緑感層に光が漏れているからでしょう。三層構造のフィルムで、赤と緑の分離に紛れがあった証しです。

 主に赤感層だけで光を捉えるので、低感度のモノクロフィルムみたいに極めてシャープな画像でした。普段使っているカラーフィルムが、乳剤層に厚味があるため画像が甘くなっているのがよくわかります。

 三層構造の撮像センサーは、フィルム乳剤よりも薄いと言われています。それでも、モノクロの撮像センサーを使って、RGB 各色とグレースケールで4回露光する方式は、デジタル式で高画質を得る最善策として、当面プロユースでは残るでしょうね。

2011/11/13(日)フィルムの三層構造

 現在デジタルカメラの撮像センサーは、ベイヤー配列と呼ばれる 4 素子で三原色の情報を得る方式が主流です。シグマが採用している三層構造の FOVEON センサーが、最もフィルムに近い方式ですが、技術的に難しいとされています。

 カラーフィルムは、上から青感層・緑感層・赤感層の三層構造です。不要な波長をカットするフィルター層と、感度や粒状性をよくするため複数の感色層があるので、実際には十層以上あるそうです。
 製造工程は、1層ずつ塗布するのではなく、比重の違いを利用して一発で塗っているというから、かなり高度な技術です。

 感材の製造ラインは暗黒の世界だから、目で見ることはできません。いままでにカメラやストロボ、三脚などの工場を見学したことはありますが、フィルムの生産ラインは見たことがないですね。
 メーカーの人から聞いた話を鵜呑みにするしかなさそうです。話してくれた人は、「見てきたような嘘を言い・・」とか言っていたから、本人も自分の目で確めたわけではないようですが・・・

 カラーフィルムは、開発の最終段階では4層構造まで進化しています。第4の感色層の登場は、REARA あたりからです。初めは青感層と緑感層の間でしたが、途中から緑感層と赤感層の間に変更されました。
 RGB の3層だけでは、目で見た色彩が得られないとの発想です。赤と緑の分離がきっちりできないのが、フィルムが抱える弱点でした。(詳しくは下記のデータファイルを参照)

4層構造に関する技術データ(pdf ファイル) FUJIFILM

 FOVEON の三層構造センサーは、各感色層間で RGB の重なりがフィルム以上に大きいのが難点です。多層構造で自然な色合いを出すのは、まだフィルムには遠く及ばないみたいですね。
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