2008/05/10(土)カールツァイスの話

 カールツァイスのT*(ティースター)コーティングは、世界で最高レベルのコーティングだと思います。何らかの形で、この技術を買っているメーカーが多いので、「あんなもの!」と批判するところはないですね。

 手元にツァイスのレンズが何本かありますが、確かに逆光に強いし、シャドー部のコントラストも良好です。持っているのは、全部単焦点レンズです。
 ズームレンズ全盛の時代に、単焦点というのは、いささか時代遅れの感がありますが、ツァイスレンズの良さは、やはり大口径の単焦点にあると思います。

 日本のヤシカと提携してCONTAXが復活した当時は、まだ単焦点レンズが主流でした。メーカーによっては、50mmの標準レンズとボディーの同梱セットなんかもありましたね。
 その後すぐにズームレンズの時代になり、ツァイスもバリオゾナーというズームレンズを発売します。40-80mmと70-210mmです。どちらもF3.5でした。40-80mmとは中途半端な気がしますが、当時のニッコールは43-86mm F3.5ですからね。

 かなり高額なレンズでしたが、求めるひとは結構いたようです。ところが、いつまで待ってもドイツ(当時は西独)からレンズが送られてきません。ポツリポツリの入荷です。業を煮やした日本のディーラーが「工場見学」と称して談判に行きました。
 格納庫のような工場で、1本ずつ手作業で組み立てていたそうです。検査でハネられたバリオゾナーが山になっていたとか・・・

 検査で通らないものは一切出荷しない!というのが、ツァイスの鉄則です。「少しぐらいのことなら内緒で・・」という日本的な感覚は通用しません。
 何とかならないかと問い詰めると、「日本人は性能が悪くて値段が高いズームレンズを何故欲しがるのか?」と、逆に問い詰められたそうです。「ズーム1本の値段で高性能の大口径レンズが何本も買えるのに・・」というのが、彼らの考え方です。

 それにしても、自分のところで作ったものを「性能が悪くて高い」とハッキリ言うとは、いかにも律儀なドイツ人気質ですね。他社のズームレンズに比べれば、かなり高性能のはずなのに・・・

2008/05/09(金)マルチコーティング

 最近のカメラ用レンズは、マルチコーティングが施されています。単層コーティングに比べて、透過率・カラーバランスとも向上しました。フィルターでもマルチコーティングが主流です。

 マルチコーティングは、メーカーによって名前がついています。カールツァイスはT*(ティースター)、PENTAXはSMC、タムロンはBBAR、FUJIFILMはSuper EBCというように、各社とも独自性を強調しています。
 大本は、カールツァイスの他にもう一社あるくらいで、元をたぐればどちらかに行き着く・・なんて話もありました。カールツァイスから特許を買ったアメリカのNASAから「又買い」したメーカーもあるようです。

 ツァイスのT*コーティングには門外不出の部分があって、NASAもすべては買っていないと思います。京セラがヤシカを買収して、CONTAXの製造販売権を握っていたときでも、肝心の部分はツァイスの人間が厳重に管理していたとか・・・
 結構値打ちのある技術なんですね。
 ツァイスから設計図だけを買っているローライのレンズには、赤いT*マークはありません。(Tの字だけは入ってます)

 巨大な坩堝(るつぼ)でガラスを溶かしてレンズを作っていた時代は、坩堝によってガラスの色目が微妙に違っていました。何でも構わず同じコーティングをして、マルチコートを売り文句にするのはおかしい!という技術者もいました。
 当時のニコンは、コンビネーション・コーティングといって、ガラスによってコーティングを変えているというのがウリでした。「C」という記号がついたレンズがそれです。いわゆる「マルC」レンズです。初期の「マルC」はマルチコートであるような、ないような・・・
 
 写真用品メーカーが、こぞってフィルターを発売したときに、ある用品メーカーのひとがこんな話を聞かせてくれました。「三層あればマルチコーティングと表示してもいい」そうなんです。
 なんか最近はやりの「糖分ゼロ」の発泡酒と同じで、怪しい表示ですね。(糖分はゼロでも糖質はあります。アルコールは糖質ですから・・・)
 当然、この用品メーカーのフィルターは、3層だけの「マルチコート」だったんでしょうね。

2008/05/08(木)レンズのコーティング

 カメラのレンズにはコーティングが施されています。余分な光をカットするのと、透過率を高める役割を持っています。

 どんなに透明度の高いレンズでも、表面の反射によってかなりのロスが出ます。レンズ1枚あたり2%程度でも、ズームレンズみたいにたくさんレンズを使っていると、光を何割かロスすることになります。
 カメラのレンズにとって、コーティングは必要不可欠です。「増透処理」ともいいますよね。

 コーティングは、普段はあまり意識されないものです。空気みたいなもんですね。
 しかし、もしコーティングがハゲてしまったら、写真の写りに大きな影響が出ます。1枚くらいハゲても透過率はわずかしか違いません。でも、確かに写り方が違ってきます。ポヤーンとした滲んだような描写になることが多いですね。
 最近どうも画像が甘い気がする・・なんて気づいたら、レンズのコーティングをチェックしてみる必要がありそうです。

 普段は意識しないコーティングですが、ハゲたら大変!という証拠を見せてもらったことがあります。前回話題の先生に写真屋をやっていた叔父さんがいて、たまに顔を出していたころの話です。
 その叔父さんに「このカメラ、露出が狂っていないか?」と、証明写真を見せられました。同時に2枚撮れる二眼式インスタントカメラの写真です。片方が白っぽく写っていたので、露出が狂っていると思ったようです。

 どれどれ・・と、インスタントバックを外して、何回か空シャッターを切ってみましたが、絞りの大きさもシャッター速度も違うようには見えません。たまたま露出計を持っていたので、カメラの内側から測ってみました。左右ピッタリです。不思議ですね。

 ひょっとして・・と思い、レンズを前から見比べてみると、片方のコーティングがハゲていました。ティッシュペーパーか何かでゴシゴシやったんでしょうね。ティッシュはいけません。紙やすりみたいなもんです。
 原因がわかって一件落着です。でも、その叔父さんは「コーティングがハゲたくらいで・・」と、納得いかないようでした。

 ハゲたほうが白っぽく写るということは、光のロスよりもフレアーの影響のほうが大きいということになります。コーティングを傷つけないようにしないとね。
 いまなら、甥っ子の先生が、両眼とも酸化セリウムの粉で再研磨して直すかもしれません。しばらくはこの先生に近づかないほうがよさそうですね。
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