2012/12/07(金)ニコンFマウントは不滅か?

 昔の資料を見ていると、日本のカメラが一眼レフをテコに世界を制覇できた理由がなんとなくわかります。ニコン F は一眼レフの頂点でした。他社はそれに近づこうと切磋琢磨を繰り返していました。
 キヤノン F-1 は名前からしてニコン F/F2 を意識していたのがわかります。露出計を内臓しながらペンタ部が肥大化しない洗練されたデザインで、随所で F/F2 より先を行っていましたが、苦戦を強いられていたようです。現在のように「二強」と呼ばれるようになれたのは、並々ならぬ努力と執念があったからでしょう。

 昭和 40 年代は普及機でシェアトップの座だった PENTAX(当時は旭光学工業)も、その後 F/F2 を意識した高級機を出しています。1980 年に 60 周年を記念して発売した LX です。着脱式のペンタプリズム、交換式のファインダースクリーン、高速モータードライブなど、ニコン F3 の向こうを張ったカメラでした。
 ミノルタは X-1 がそれに相当します。モータードライブ仕様は専用機でした。それほど売れなかったと思います。「ペケイチ」なんて呼ぶ人もいましたっけ。

 国内メーカーで一眼レフのマウントを変えずに現在まで継続しているのは、ニコンだけだと思います。露出計の連動や AF 化に伴う電子接点など、部分的な変更はあったものの F マウントの基本的な規格は同じです。F/F2 時代のレンズでもちゃんとはまって写ります。

 ニコンのサイトに「F マウントレンズ体系」というシステム図があって、初期のものから現在のものまでを体系的に分類しています。CPU を内蔵しているかどうか、AF か MF か、モーターを内臓しているかなど、全部で 15 種類に区分けしています。
 うちに転がっているレンズは、Ai 改造していない初期のモデルだから、「非 AI レンズ」という分類に入ります。最も原始的な F マウントです。それでも最新式のボディーに装着できて、写真を撮ることができるのは驚きです。

 これは他社にない特長ですが、古い規格を引きずっているため、最新技術が活かせないジレンマもあるようです。いつか新しい規格のマウントを導入する時期が来るのでは?
 ミラーとペンタプリズムを使った光学式ファインダーのうちは、それはないでしょう。あるとすれば、ミラーボックスをなくすときだと予測します。フランジバックやフォーマットサイズも含めて、新しい規格を採用するチャンスです。
 もちろんアダプターを介して、F マウントのレンズは装着できるようにするはずです。そういう点では「不変」ではなく「不滅」と言えるかもしれません。

2012/12/06(木)超望遠もニコンの十八番

 Nikon F/F2 の時代に、魚眼レンズを何本も揃えていたのはニッコールだけでした。ニコン F システムが特殊な業務用途に使われていた証しです。報道関係は判で押したようにニコンでした。キヤノンは F-1 を投入し、何とか食い込もうと躍起でしたが、なかなか壁を突破できずにあがいていました。
 もうひとつ他社を大きく引き離していたのが、超望遠レンズの充実です。一般ユーザー向けは 300mm までがせいぜいだった時代に、大砲みたいなレンズをズラリと揃えていました。

 400mm から 1200mm は、ピント合わせのヘリコイドと絞り機能を持たせた、共通のフォーカシングユニットを使います。レンズが二つに分離できたので持ち運びが楽でした。フォーカシングユニットは3万円ほどだったから、大幅なコストダウンにはならなかったと思います。
 超望遠レンズの絞りはまだプリセット式や普通絞りが多かった中で、フォーカシングユニットは自動絞り機能を備えていました。ただし、露出計は絞り込み測光、1200mm はレンズ側の普通絞りを使いました。

 ヘリコイドリングの繰出量が 40mm しかなかったので、400mm F4.5 は最短撮影距離が約 5m、600mm F5.6 は約 11m、800mm F8 は約 19m でした。焦点距離が長くなるほど近距離での撮影が制約されます。
 ニコンの内臓露出計は F5.6 までは開放測光が可能でした。400mm F4.5 と 600mm F5.6 は、単独設計にすれば開放測光が使えます。そんな事情からか、フォーカシングユニットを利用した超望遠システムは、やがて姿を消すことになります。

 レフレックス(反射式)望遠レンズもニコンが草分けです。500mm F8、1000mm F11、2000mm F11 の3本が揃っていました。「ニッコールレンズ読本・第3集」の光路図を見ると、主鏡と副鏡の裏側で反射させています。ミラーが屈折レンズの役割を兼用する特殊光学系です。メーカー(当時は日本光学工業)の表現は「カタジオプトリック系」となっていました。

 2000mm F11 は、どう見ても経緯台に載ったカセグレン式の反射望遠鏡です。日本光学は天体望遠鏡も製造していましたが、市販品は 8cm 屈折式でした。ミードやセレストロンみたいに、この反射式を望遠鏡として出す気はなかったようです。写真撮影用のレンズと眼視観測用の望遠鏡では、求められるスペックが違います。

2012/12/05(水)魚眼レンズはニコンの十八番

 写真工業別冊の「ニコンのシステムとメカニズム」(1971)にニッコールレンズのラインナップが紹介されています。フィッシュアイニッコールが4本載っていますが、前に紹介した「ニッコールレンズ読本・第3集」とは顔ぶれが違います。
 掲載されているのは、6mm F5.6、7.5mm F5.6、8mm F2.8、10mm F5.6 の4本で、前の2本が「旧タイプ」のようです。8mm F2.8 以外はミラーアップして使うタイプで、専用ファインダーとセットになっています。

 画角 220°の 6mm は、後のタイプが F2.8 と明るくなり、ミラーアップせずに使えるようになりました。レンズの直径 236mm、重量 5.2kg と、化け物みたいに大きな魚眼です。以前ネットオークションで千数百万円で落札されたとかで、一時話題になりました。
 その前身がこの 6mm F5.6 です。画角が 220°もあると、2台並べたバイクの間の地面にカメラを仰向きにして置くと左右にバイクが道路ごと写ります。カメラ雑誌に載った写真を見て感心したものです。

 1974 年 2 月 1 日現在の価格表では、F5.6 が 24 万円、F2.8 はナント! 70 万円となっています。この価格表で 20mm から 300mm までの単焦点で 10 万円を超えるレンズは1本もありません。いちばん高いのが 180mm F2.8 の 85,000 円、安いのは GN 45mm F2.8 の 19,000 円です。そんな時代の 70 万円は、「車より高い」と話題になりました。ちなみに一番高かったのは、反射式 2000mm F11 で 80 万円です。

 全円周タイプの魚眼レンズは、気象観測や天体観測などの学術研究用で、一般ユーザーが購入することはありませんでしたが、憧れの対象ではありました。ズームレンズが特殊レンズ扱いで最後のほうに載っていたのに、魚眼レンズは一番初めに紹介されています。ニッコールの看板みたいなもんですね。他社からはキヤノンの 7.5mm F5.6 が供給されていた程度です。

 フィッシュアイレンズを使ってみたいユーザーの声を反映して、ケンコーから魚眼のフロントコンバージョンレンズが登場しました。50mm クラスの標準レンズに取り付ければ全円周魚眼に、100mm クラスの望遠レンズだと対角線魚眼になります。画質はともかく、手軽に魚眼レンズの効果を楽しめました。

 現在では、全円周タイプを供給している国内メーカーはシグマくらいでしょうか? あとはほとんどが対角線魚眼です。キヤノンの 8-15mm F4L は、フルサイズなら 8mm 側で円くなります。
 DX フォーマット用のフィッシュアイ・ニッコール 10mm F2.8G を FX フォーマットで撮れば、全円周になりそうな気がしますが、メーカーサイトにはその記述はありませんでした。単焦点の全円周魚眼は、新規の需要があまりないみたいです。
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