2008/02/01(金)デジタル用レンズ
「被写界深度」という言葉は、少し写真を勉強したひとなら耳にしたことがあると思います。ピントを合わせた面の前後に、あたかもピントが合っているように見える許容範囲があります。このことです。
被写界深度は、ワイドレンズは深く(広く)、望遠レンズは浅く(狭く)なっています。また、絞りを絞り込むほど深くなる性質を持っています。これは被写体側の話です。
一方、フィルム面(撮像面)側のピントの許容量を「焦点深度」といいます。プロでも間違えて被写界深度と混同して使うひとがいますが、まったく別のものです。
焦点深度は、被写界深度と逆で、ワイドレンズは浅く、望遠レンズは深くなります。望遠レンズは、多少のガタつきがあっても写りますが、ワイドレンズでガタがあると、片ボケしたり画面のどこにもピントが合っていない写真になることがあります。
フィルムには厚みがあります。厚みといっても全体の厚さではなく、乳剤といわれる感光層の話です。カラーフィルムなら青感層・緑感層・赤感層の3層構造になっています。実際には第4層やフィルター層など十数層あるそうです。この厚みのどこかにピントがくれば良いことになります。
デジタルカメラの撮像板(CCDやCMOS)には、フィルムのような厚みはありません。受光面はただの平面です。ここに正確にピントがこないとピンボケになってしまいます。
ワイドレンズは焦点深度が浅いので、このギャップが顕著に出ます。フィルム全盛時代に作られたレンズは、デジタル式の撮像板など想定外ですから、どこにもピントが合っていない写真になる可能性があります。
もうひとつは周辺減光の問題です。レンズの性質で画面中心部よりも周辺部のほうが暗くなります。絞りを絞ると改善されるので、普段は気づくことはありません。
フィルムは乳剤に厚みがあり、光を透過しますから、斜めからの光でも感光します。ところが、デジタルの撮像板はただの平面で、受光素子はすべて正面を向いています。周辺の斜めからの光は感知しません。周辺減光(周辺光量の低下)が顕著に出ます。
他にもいくつかありますが、以上のような理由で、フィルムで使えたレンズでもデジタル式だと不都合が生じるわけです。
デジタル一眼レフが普及し始めのころには、「最近目が悪くなったのかピントが合わない」という話をよく聞きました。目が悪くなったのではなく、もともとピントが合わないレンズを使ったわけで、レンズを換えるしか手の打ちようがありません。
被写界深度が深いワイド系のレンズを絞り込んで使ったのになぜ? というプロも結構いましたね。焦点深度の原理を知っているひとは、プロでもそれほど多くはありませんから・・・
そのことをいいことに、フィルム時代のレンズをダンマリでデジタル対応にそそくさと切り替えたメーカーは、ズルイというか商売上手というか・・・ これが食料品なら「偽装」問題でしょうね。