2008/06/13(金)セピア色の調色

 モノクロームの写真には、セピア色のものがあります。古い白黒写真が変色してなったものと、はじめからセピア色に仕上げたものと、2種類あります。

 セピア色=古い写真・・という発想から、レトロな雰囲気を出すためにわざとセピア調にすることがあります。水洗処理が不完全で、経年変化で茶色くなったプリントが、いかに多いかがわかりますね。
 デジタルカメラにセピアモードがついている機種があります。デジタルでレトロ調を楽しもうという遊び心です。

 銀塩の白黒印画紙には、諧調のほかに色調があります。純黒調・冷黒調・温黒調など、同じ「黒」でも微妙に色調が違います。人物写真には、温黒調が好んで使われました。
 さらに温かみのある色調にするために、セピア調色という技法も使われました。一旦プリントしたモノクロ写真を減力剤を使って薄くしてから、セピア調色剤で着色する方法です。仕上りの時点でセピア色になっていたので、変色して茶色っぽくなったのとは違います。

 前から疑問に思っていたのですが、「本当のセピア色」とは一体どんな色調だったんでしょう。復活して世の中にあふれている現在のセピア色には、ずいぶん色目に幅があります。
 きちんと処理されたセピア調色の写真でも、ある程度の退色はあるでしょうから、何十年か前の写真を引っぱり出してきて、これが本物のセピアだ!というのも少々無理があるように思います。

 デジタル写真のセピア色は、一旦色彩をクリアした状態で色をつけているので、黄色っぽくもできるし、赤っぽくもできます。赤茶色を採用していることが多いようですね。
 デジタル時代のセピア色は、あくまでイメージカラーとして、自分の好きな色目を自由に選べばよいのかもしれません。

2008/06/12(木)モノクロは水洗が命

 モノクロームの銀塩写真は百年以上の耐久性がある・・といいましたが、数十年で変色した写真をよく見かけます。大抵は、きちんとした現像処理をしていないプリントです。

 昔の白黒印画紙は、「バライタ紙」といって、ベースが紙でした。現像処理液が染み込むので、水洗をきちんとしないと定着液が残って変色の原因になります。モノクロプリントは「水くい虫」でした。
 現在の白黒印画紙は、RC(レジンコート)とかWP(ウォータープルーフ)とかいう、薬液の染み込まないタイプに変わっています。水洗は短時間で済むようになりました。カラーペーパーも同じです。

 学生時代に焼いたプリントは、変色せずに残っています。「酸化セリウム」の先生は、「お前はきちんと処方箋どおりにやっていたからなぁ」と感慨深げです。この先生、当時は結構いいかげんでしたからね。
 いまでは、広い暗室に全紙まで水洗できる専用の水洗器を設置しています。きっと懲りたんでしょうね。

 何十年か経って、はじめて実感できることが、世の中にはたくさんあります。公害や地球温暖化がそうですね。少しくらい・・という甘えが積み重なって、取り返しがつかなくなってから、あわてて対策を講じても、手遅れのことがあります。

 退色や変色してしまった写真を修復するのは、大変な手間と技術が必要でした。デジタル画像処理技術が進んだことで、写真の修復は比較的簡単にできるようになりました。
 デジタル技術の発達で衰退した銀塩写真をデジタル技術が救う・・・因果ですね。カラー写真はデジタル画像から銀塩プリントできるけど、モノクロ写真のデジタルデータは引伸機にはかかりません。

 カラーペーパーでモノクロプリントするのは、ちょっと抵抗がありますね。

2008/06/11(水)モノクロ写真は不滅

 これから写真の世界に入ってくる若い世代が気の毒なのは、モノクロームの銀塩写真を体験する機会が少ないことです。
 暗室にこもって徹夜でプリント・・なんて楽しみは、もう経験できないかもしれませんね。

 好きな写真家の作品で記憶に焼きついているのは、大抵モノクロ写真です。数年前に、品川にあるキヤノンのギャラリーで、石元泰博(いしもとやすひろ)の写真展をやっていました。1950年代のアメリカを表現した「シカゴ、シカゴ」は有名です。

 石元泰博は、バウハウスの流れをくむ造形写真家として知られています。「桂離宮」や「伊勢神宮」を捉えた造形美は、氏の独特の切り口です。「あと1センチでもカメラを動かしてみろ!」といわんばかりの絶妙なカメラアングルと、洗練された構図が好きですね。
 キヤノンのギャラリーで堪能させてもらいました。

 泰博の写真は、ほとんどがモノクロの作品ですが、「曼荼羅」はカラーです。胎蔵界と金剛界の両界曼荼羅を題材に、氏独特の切り口で模写しています。
 当時、「あんなのはただの複写だ!」と揶揄する声もありましたが、写真技術のなかで一番難しいのは複写だということを知らないひとたちですね。

 キヤノンSタワーに来たついでに、ショールームも覗いてきました。当時「エプソンに追いつけ追い越せ」の勢いで力を入れていたインクジェットプリンターが、ズラリと展示してありました。
 説明員のお姐さんに、「染料インクはすぐ退色するからなぁ」と水を向けると、「デジタル画像は不変ですから、色褪せたらもう一度刷り直してもらえば元の鮮やかさが甦ります」との返事でした。
 さすがに一流企業の説明員は、よく教育されてますねぇ。

 数十年の歳月を経て、色褪せることもなく飾られていた石元泰博のオリジナルプリントを見たあとだけに、デジタルプリントのはかなさを痛感しました。
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