2009/03/10(火)小さな商品は写真電球で
照明は、ストロボでもいいし、電球でも撮れます。デジカメなら蛍光灯もアリです。
CM写真のプロの多くは、写真電球を愛用しています。その理由はいくつかあります。
ストロボは、シャッター速度を変えても光量は変わりません。電球照明は、シャッター速度を変えることで、絞りを選ぶことができます。F11からF16に絞り込みたいときは、シャッター速度を1速落とせばいいわけです。
ストロボでは、それができません。光量自体を増やす必要があります。フルパワーだったら、それ以上にはなりません。(多重露光という手はありますが・・・)
フィルム時代は、ストロボならデーライトタイプ、電球照明ならタングステンタイプのフィルムを使っていました。
タングステンタイプは、スローシャッターを切っても相反則不軌は起きません。心置きなく4秒とか8秒の超スローシャッターが選べました。(デーライトタイプでは、感度低下やカラーバランスのズレが起きます)
プロが写真電球(レフランプ)を愛用する一番の理由は、ガラスグローブの形状にある・・といいます。ストロボの閃光管では得られない、光の微妙なコントロールが魅力だとか・・・
トレーシングペーパーなどのディフューザーを介して照明しますが、ランプの振り具合で光の表情が変わります。電球自体が、小型のライトボックスになっていて、ダブルディフューズのような効果があります。
写真電球を使った撮影では、なるべくクライアントを立ち会わせないようにしていたようです。照明設備に金が掛かっていないので、料金を取りにくい、という事情があるからです。
一番安上がりなライティング法を盗む機会は、あまりなかったみたいですね。
2009/03/09(月)お中元のビールは上げ底?
では、箱に入ったギフト用の缶ビールは、そのままで撮れるのでしょうか?
お中元のギフト用カタログに載っている缶ビールは、実は上げ底になっています。そのまま撮ると、奥に引っ込んだ感じで写るからです。
指紋がつかないように手袋をして、すべて取り出してから、スペーサーを入れて商品を上に浮かせます。その状態では上蓋がきちんと閉まらないのですが、そのくらいでちょうど目で見た感じに写ります。
実際にギフトカタログを注意深く見てみると、確かにほとんどの商品が下箱よりも上に出ているのがわかります。これで正常に見えるというのは不思議ですね。
商品撮影では、セットした撮影台に、次々と商品を差替えて撮ることを「置き撮り」といいます。ただ商品の箱を置き替えるだけのように思いますが、すべて手を加えてからすげ替えるので、手間が掛かります。
商品撮影を自社で内製化する企業が増えています。撮影を担当する社員が、果してこうしたテクニックを知っているかどうかは疑問です。プロに頼むと高いのは、伊達にメシを食っているわけではないからです。
フィルム時代には、スタジオでの商品撮影に、クライアント側の担当者が立ち会うことがありました。このとき、気の利く担当者なら、プロのテクニックをつぶさに見て、要点を押さえられたはずです。
まさかデジタル時代になって、クライアント側で撮影することになるとは思わなかったから、プロも油断をしていました。
いまごろ のこのこと、撮影の仕方を教えてもらいに行っても、だれも相手にしてくれないでしょうね。
2009/03/08(日)商品写真は拘りの塊
腕時計を撮るプロは腕時計しか撮らないし、オーディオ機器では、ウッドとメタルで撮影するカメラマンが替わることがあります。
なぜそうなるのかは、商品写真に対する拘りが、極めて高いからです。他社より少しでもよく見えるように、納得のいくまで追求する姿勢がなければ、第一線では活躍できません。
例えば、缶ビールの写真を撮るとします。
新聞や雑誌の広告に使う写真だと、用意するビールが1~2本ということはありません。最低でも1カートン用意します。
キズの問題だけではなく、プルキャップの位置が違うからです。製造工程上、ラベルの印刷とプルキャップの位置は、ランダムに変わります。一番見栄えが良いものを選ぶために、何十個かを用意するわけです。
プロの裏ワザといっても、特殊なテクニックだけではありません。こういう素材の選定への拘りが大事な要素です。
缶ビール以外に缶飲料のほとんどが、こうした下準備をして撮影されます。瓶ビールでも、王冠の向きがランダムだから同じです。
新聞広告だと、カラーでなくてモノクロ写真になる場合があります。ラベルはカラー印刷されていますが、モノクロでは色がつきません。目で見た感じを出すために、フィルターワークが必要です。
赤い色は、レッドのフィルターをかければ白く写ります。逆にシアンをかければ黒く写ります。どの色をどの濃度で表現するかは、フィルターワークでコントロールします。
あとからデジタルで画像処理をすれば、ある程度のコントロールは可能ですが、デザイナーの手をできるだけかけさせないのが、一流の写真家の仕事です。