2019/06/24(月)古い不動産の名義変更は大変 4

 遺産分割協議がまとまらなかったときはどうすればいいのでしょう。このままだと次の世代まで相続問題を引きずることになりそうです。いまさら法的な相続放棄はできないし、何としてもそれだけは避けたいところです。

 家庭裁判所に遺産分割調停事件として申し立てるしかないようです。相続人だけで話がまとまらないときは、家庭裁判所の調停委員が代わって調停を進めます。調停で話がつかなかったときは、自動的に審判手続が開始され、裁判官が審判を下します。地方裁判所の判決に相当するものです。

 家庭裁判所に調停を申し立てるのは相続人の誰でもできます。全員が順次裁判所に呼ばれ、意向聴取と話し合いが行われるので、「言いつけっびが得」ということはありません。では、今回の母親の実家の場合はどうでしょうか?

 遺産分割協議は全員参加、全員一致が原則です。誰かを除外したり、一部の者だけで勝手に協議を進めたりしてはいけないことになっています。もちろん一人でも反対者がいれば、遺産分割協議は不成立です。

 後妻の末っ子にあたる叔父さんは、何とか自分の名義にしようと必死です。ただし遺産分割協議の原則がまったくわかっていません。議会制民主主義の多数決でもなければ、株主総会の議決権とも違う、ということが理解できないみたいです。

 自分はほかの人と相続割合がこんなに違うとか、8割の人からハンコをもらったなど、意味不明の言い分に終始しています。代償金がまったくないのに相続割合を持ち出しても無意味です。遺産分割協議が成立してないのに「8割集めた」って、それ何の書類? もし遺産分割協議書なら無効です。(あるはずのない書類だから)

 この叔父が家庭裁判所に調停を申し立てても、すんなり意見が通ることはないでしょう。実家を取得する人が代償金を用意できるか、代償金を満額用意できないときは誰が相続するか、現在一人で住んでいる伯母の名義にするなら全員が納得するか、などが話し合いの論点になると思われます。

 最後は家庭裁判所で審判が出るから、時間が解決してくれるかもしれません。ただし誰かが調停を申し立てたらの話です。50 年以上も放置されてきた相続です。みんなほっかぶりでそのままになる可能性が大です。(それも困るなぁ)

 頑張れ!叔父き。自分が勝てると勘違いして、裁判所に調停を申し立てておくれ!

2019/06/23(日)古い不動産の名義変更は大変 3

 あと少しのところで頓挫したのは、伯母さんが末っ子の弟の名義にしたいと言い出したからです。しかも遺産分割協議をこの弟に任せてしまったことで、まとまりかけていた話がご破算になってしまいました。この叔父はプライドばかり高くて、遺産分割協議がどういうものか、まったくわかっていません。しかも弁護士事務所に頼んだというから最悪です。

 相続財産に不動産が含まれる場合は、法務局の登記資格のある司法書士に依頼するのが一般的なやり方です。司法書士の報酬は5千円1万円、高くて2万3万の世界です。いっぽう弁護士は5万 10 万、その上は 30 万 50 万が相場の世界で生きてる人たちです。戸籍謄本などの資料集めと登記業務だけなら司法書士に丸投げして終わりのところもあります。

 母親は「弟は弁護士まで立てて…」と息巻いてました。この年代の人は「弁護士」と言うだけで十分脅し文句に聞こえるみたいです。脅してハンコを押させるのは、遺産分割協議では御法度です。そして「ハンコを押さないのはあんた一人」という嘘もね。

 母親が反対するのは、すぐ上の姉が一人で住んでいるからです。まだ生きて住んでいる者がいるのに自分のものにするとは何事!と怒ってました。いずれ姉は家を追われる…そういう心配をしているみたいです。さもありなん、です。

 伯母さんは結婚もせず一人で気ままに生きてきたせいか、少し自分勝手なところがあります。「この家は私のもの」→「私が弟に譲ると言ってるのだから…」 この論理の飛躍が忘れかけていた先妻と後妻の子孫の確執に火をつけたようです。先妻の子孫にとって、伯母さんの弟は「後妻さんの末っ子」でしかないからです。

 最後の最後に独り身の年寄りのわがままが裏目に出ましたね。伯母さんの名義にすると言えば反対する人は誰もいなかっただろうに、判断ミスでした。弟に譲りたければ一旦自分の名義にしておいて、遺言書を作れば済む話です。自分が死んだら全財産を弟が相続する、とね。

 一人に全財産なんて遺言書を書くと、「遺留分に配慮してない」なんて声が聞こえてきそうです。伯母さんの相続人は兄弟姉妹とその代襲相続人です。兄弟間の相続に限って遺留分はありません。誰にも遺留分減殺請求する権利がないわけです。

 叔父さんもこのほうが得だと思うけど、ひとの話に耳を貸さないんだわね、この人。

2019/06/22(土)古い不動産の名義変更は大変 2

 遺産相続で、不動産以外にこれといった財産がないときは困りものです。分けようがないからです。相続人全員が登記することは可能ですが、年月が経つと売るに売れない状態に陥る可能性が大です。一般的に不動産を複数の人で共有するのは、田んぼを分けるのと同じく「たわけ」たやり方です。

 不動産を一人取得した者がお金を用意して相続人に分配するやり方を「代償相続」と言い、法律で正式な相続方法のひとつと認められています。不動産を取得した人には相続税の全額、代償金をもらった人には贈与税が掛からないようにするためでしょうね。被相続人の財産でないお金のやり取りは、税務署から贈与とみなされる可能性があるからです。

 では、代償金が払えない場合はどうでしょう。相続人全員で遺産分割協議を行い、誰か一人に無償で相続させることで合意が得られれば、お金のやりとりなしで名義変更することができます。法定割合は、相続でもめた場合に裁判所が基準にするもので、全員の合意があれば法定割合どおりでなくても構わないことになっています。母親の実家も祖父が亡くなったときにこの合意が成立していればよかったんだけどね。

 祖父が亡くなったとき母親といちばん上の姉さんは、嫁に出ているからと相続放棄をしたそうです。裁判所で正式に手続きしたそうだから、その時点で相続人ではなくなっています。ところが、相続権のある祖母(配偶者)が亡くなったときに相続放棄をしなかったので、母親といちばん上の姉さんは相続人として復活することになりました。さらに祖母の連れ子も相続人となりました。

 異母兄弟のほかに異父兄弟までが相続人になり、しかも亡くなった方の子孫が代襲相続人となって、人数は増えるばかりです。それでも全員の所在がわかって連絡がついたというから驚きです。古い家はどこかでつながってるんですね。

 50 余年の歳月が経つうちに、この家に住むのは母親のすぐ上の姉さん一人になりました。結婚もせず祖母の面倒を見、一人で実家を守ってきました。この家の主がこの伯母さんであることに異論を唱える人はいないと思います。遺産分割協議は成立するかに見えましたが、とんだところで落とし穴が待ち受けていました。(続く)
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