2009/03/25(水)料理の湯気の演出

 料理の写真撮影で、湯気が必要なことがあります。温かいうどんを表現するには、欠かせない演出です。
 本物の湯気を使えばいいわけですが、うまく写るかどうかはわかりません。並べ付けに凝った撮影では、時間との戦いになります。

 時間の制約なしに湯気を撮る場合は、ドライアイスを使うのが便利です。うどんは硬めにゆでて、のびないようにしておきます。汁の温度はぬるま湯程度がいいでしょう。食べる目的ではないから、撮影するのに都合がいい状態にします。

 ドライアイスは、紅茶を入れるときの金網の茶漉しに入れます。
 どんぶりの上にそーっと持っていくと、炭酸ガスは空気より重いから下に降ります。うどんの汁は、やや温かいので、下に降りた「湯気」は上昇に転じます。そこを撮るわけです。
 この方法なら、汁が冷めるまで何度でもやり直しができます。

 湯気を活かした撮影では、背景は暗いほうが湯気が目立ちます。白バックでは湯気が背景に溶け込んで写りません。艶消しの黒バックにするか、背景へ光が回らないようカットします。

 ストロボ照明だと、ドライアイスの湯気が煙のように見えることがあります。閃光時間が速いからです。
 斜め後方から、タングステン光のスポットライトをあてて、1/15秒から数分の1秒程度のスローシャッターを切ると、湯気が微妙にブレて本物らしく写ります。
 色温度の補正もあるし、うどんと湯気を別々に多重露光するのが正攻法です。多重露光する場合は、絞り値を変えないのが鉄則です。被写界深度が変わるからです。シャッター速度だけで露出をコントロールします。

 多重露光が面倒なら、スポットライトに色温度変換フィルターをかけて、ストロボ光と色温度を合わせます。タングステン光のままでも、それらしい雰囲気で写ることもありますが・・・

2009/03/24(火)生肉の撮影は早めに

 食品の撮影は、一度に何種類も行なうのが一般的です。どの食品から撮影するかは、作業効率を考えながら決めます。

 あるプロの失敗談です。お中元のギフト商品を撮影したときの話です。
 缶ビールの詰め合わせから高級和牛まで、数十点の商品を撮影しました。撮影に使った商品のなかには、返却不要のものもありました。生ものです。
 撮影に使った食品は絶対に口にしない・・というのがプロの鉄則です。しかし、このときは深夜におよぶ撮影で心に迷いが起きました。高級和牛です。

 撮影が終わったあとで、高級和牛で一杯やろうということになり、生肉の撮影を一番最後に回しました。結果は、肉の色が出ていない・・という理由で再撮(撮り直し)です。何時間にも及ぶ撮影で、最後に回した生肉の色が変わってしまいました。
 それ以降、生ものは最初に撮る、商品には手をつけない、この二つを徹底することにしたそうです。

 撮影した食品に手をつけない・・ということを徹底しているひとは少ないですね。食欲は、人間の欲望のなかでは一番逆らい難いものです。食べ物の撮影は、自分の本能との戦いです。

 街の写真屋が、近所のレストランから料理の撮影を頼まれたときに、立ち会ったことがあります。料理を撮るのは自信がない・・というので手伝いました。
 写真屋の社長と店員合わせて4名のスタッフです。次々に出てくる料理を手際よく撮影できました。初めてにしては上出来です。

 撮影終了後に、最後に出てきたトンカツを食べたいと社長が言います。シェフは、「いいですよ」と返事をしていましたが、印象はどうだったでしょうか?
 「あまりにおいしそうだったので・・」と言い訳をしていたから、気分を害することはなかったと思いますが・・・

2009/03/23(月)丼モノの写真は照りがミソ

 光りモノの撮影は難しいから、プロに任せるとして、料理を上手に撮る裏ワザを紹介します。近所の喫茶店や食堂から頼まれることがあるかもしれません。

 街の喫茶店でメニューを見ていて、商品の後ろに強い影が出ていたら、それは素人が撮った写真です。皿の手前にフワッと柔らかい影が出ていたら、たいていは本職の仕事でしょう。
 違いは、ライトの質と方向です。

 一般的に、料理の写真を撮ったことのないひとは、前から光を当てようとします。カメラにつけたストロボを直焚きするのはド素人ですが、面光源を使いながら、手前から照明している写真をよく目にします。
 たぶん、人物しか撮ったことがないからだと思います。職業写真家でも、写真館なんかはこういうライティングをするひとがたまにいます。

 料理の写真は、被写体がテーブルに仰向けに寝ているのと同じです。ライトは90°向こう側に移動するので、被写体の上方、やや後ろ寄りとなります。
 テーブルトップの撮影は、上から面光源で照らすのが基本です。皿の手前に落ちた影が強い場合は、レフ板で光を返して整えます。
 皿の上に盛られた料理は、このセッティングでほとんど撮れるはずです。

 もうひと手間かければ、料理をよりおいしく見せることができます。
 天丼やうな丼は、被写体の斜め後方からスポットライトを当てます。スポット光とカメラの角度が合うと、表面に「照り」が出ます。天ぷらのカリッとした感じや、うなぎのタレの質感が出て、一層おいしさが増します。

 焼肉定食は、肉の表面にハケで油を塗って照りが出るようにします。プロは工業用の油を使うそうですが、アマチュアの場合は食用油でいいでしょう。
 撮影に使った食品は、絶対に口にしないのがプロの鉄則です。アマチュアにそれを求めるのは酷でしょうね。もったいないし・・・
OK キャンセル 確認 その他