2012/11/30(金)一眼レフはメカニズムの塊だった

 1971 年発行の「ニコンのシステムとメカニズム」(写真工業刊)には、随所にメカニズムを解説したイラスト(というか分解図)が載っています。もともと理工系の雑誌だからですが、よくこれだけ複雑な機構をあのサイズのボディーに組み込んだものだと感心します。

 ニコマート FT N の分解図も載っていますが、F2 と比べるとずいぶん簡素なつくりです。ミラーボックス部や鋼板プレスの箱型ペンタプリズム部などのユニット化されたパーツをボディー本体に組み込むやり方です。当時としては珍しい縦走りのシャッター部もユニット化されています。

 あのころの一眼レフのボディー部(ダイカスト)は、アルミ合金の塊をくりぬいて作っていました。ニコン F に限らず、他社の一眼レフも同じです。アルミ合金ダイカストからプラスチックボディーに変わったのは、キヤノン AE-1 からだったと記憶しています。他社からは批判的な声が上がりましたが、勝てば官軍、それ以降ダイカストボディーは、一部の上位機種を除いて姿を消します。露出計や電子制御のシャッターなど、電気部品が増えた影響でしょう。

 一眼レフがメカニズムの塊だったのは、F/F2 の時代まででした。F3 から絞り優先の自動露出にするため電子制御式のシャツターを採用しています。電子化で部品点数はかなり減ったと思います。その代わり、半導体を使ったプリント基板がカメラに組み込まれました。

 電子化に伴い、ダイカストだけでなくそれまで金属製だった外装もプラスチック化されました。PENTAX ME は、息子が修学旅行で軍艦部を凹ませてしまい、ひょんなことでまだ金属外装だとわかりましたが、その後の MV-1 などはプラスチック外装です。
 それまで割高だったブラックボディーは、シルバーと同価格になりました。金属に似せたクローム仕上げのほうがコスト高だったと思います。メーカーとしては、そちらを高くしたかったのでは?

 F 一桁シリーズは、ニコンのフラッグシップ機として、内部フレームも外装も一貫して金属を使っています。堅牢性が確保できる代わりに筐体が大きく重くなります。プロ用とアマチュア用の違いのひとつです。F6 の外装は、真鋳ではなく軽くて強いマグネシウム合金を採用しています。
 デジタル化で中身が電子部品の塊になっても、一眼レフの材質に拘る人がいるのは、こうした流れがあるからでしょうね。

2012/11/29(木)ニコンFは世界最高峰の一眼レフだった

 本棚の片隅にニッコールレンズ読本・第3集と並んで、写真工業 '71 5月臨時増刊の「ニコンのシステムとメカニズム」という本があります。「最新版」となっていますが、もちろん当時としては・・の話です。
 A5 版 208 ページ立てすべてが、ニコン F とニコマートのメカニズムとシステムの解説に充てられています。それだけの価値があるカメラでした。

 多分、写真専門学校に入ったとき、「これ使ってくれ」と先輩が貸してくれたニコン F のために買ったんだと思います。貸してくれたのは露出計のないアイレベルのシルバーモデルでした。
 すでに TTL 露出計を内蔵したフォトミック FT N ファインダーが発売されていましたが、頭でっかちの無骨なカメラでした。ニコン F は、やはり露出計のない三角頭のプリズムファインダーが、デザイン的に洗練されていたと思います。

 冒頭、堀邦彦氏解説の「ニコン誕生」では、「『ニコン F』このカメラの名は日本国内よりも、むしろ外国のほうでよく知られているようである」との記述で始まります。続けて、「アメリカやヨーロッパを旅行して、ニコンの名高いのにおどろかされ、あらためて持つ誇りを感じたと述べるユーザーは少なくない」と述べています。
 外国人から、「あなたは日本人なのになぜ SEIKO の時計をしない」と言われて、初めて日本製品の良さを認識したという話に似ています。ニコン S シリーズにはライカという先駆者がありましたが、一眼レフは日本のメーカーが世界に先行していました。

 高校時代には PENTAX SP がベストセラーで、親に無理を言って買ってもらいました。当時の社会人が憧れていた耐久消費財の筆頭です。ただ、先輩のニコン F と比べると、ブリキ細工みたいに感じたのを覚えています。
 旭光学のサービスセンターで受付の姐ちゃんと揉めていたら、奥から偉そうな課長とやらが出てきて、「ウチの SP はあんたらのような学生が持つカメラじゃない」と言われたのには、カチンときましたね。思わず「こんなのただのブリキ細工じゃないか」と、放言してしまいました。(大人げない)
 心の中で、いつかはニコンにするぞ!と誓ったものです。

2012/11/28(水)ローパスレスと解像力

 最近、ローパス(Low-pass)フィルターの効き目を弱くしたり、フィルターそのものを省略したりして、解像力を上げる一眼レフが登場しています。画素数を上げれば解像力も上がるはずだから、高画素機でローパスレスにする必要はないように思えますが・・・

 どうやら、撮像センサーの解像力よりレンズの解像力が相対的に低くなり、LP フィルターで画像を散らす必要性が薄れてきたのが理由のようです。現にフォーマットサイズが小さいコンデジには、高画素化が進んだ結果、もう LP フィルターは使われていないそうです。
 パーツの中ではコストが高い部類の LP フィルターが省略できれば、メーカーとしては大助かりです。

 LP フィルターでわざと光を散らして結像を甘くするのは、モアレ(干渉縞)と偽色の発生を抑えるためです。撮像素子が規則的な格子状の配列である限り、モアレを完全に抑えるのは無理だと思います。出にくくするのが目的です。
 もう片方の偽色は、ローパスレスにすると出る確率がかなり高くなります。RGBG ベイヤー配列の弱点です。三層構造センサーは、理屈の上では偽色は出ないことになっています。

 より解像度の高いシャープな画像を求める人は、レンズの解像力を上げ、ローパスレス化を求めます。モアレや偽色が出やすくなっても解像度のほうを優先させる考え方です。
 一方、ローパスレスにするならレンズの解像力をあまり上げすぎないほうがいい、という意見もあります。LP フィルターは無意味で使われているわけではない、と主張する人もいます。LP フィルターにはメーカーごとに独自のノウハウが詰めこまれいるそうです。だからコストが高いんだとか・・・

 どちらの言い分が正しいのかは、単純にジャッジできないと思います。ただ、「木を見て山を見ず」という諺があります。目先の細かいところばかりに目がいって、全体像を捉えていない例えです。等倍鑑賞で解像感を求める声には、「葉っぱを見て山を見ず」みたいなところがある気がしないでもありません。
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