2008/10/03(金)緑川流の合成写真

 緑川洋一氏は、風景写真に科学的なテクニックを多用した写真家です。太陽と鳥を重ねる技法は卓越していました。

 超望遠レンズで大きく拡大した太陽の中に、雁が並んで飛んでいる写真は、どう見てもシャッターチャンスに恵まれた自然な描写です。
 ところが、作者が緑川氏となると、知っているひとは本物の場面を撮ったとは思いません。何か「細工」をしているはずだと、疑ってかかります。案の定、合成写真でした。

 太陽の中を飛んでいる鳥は、実はリスフィルムに焼き付けたものです。
 まず、透明な背景に黒い鳥が数羽飛んでいるリスフィルムを作ります。次にそのリスフィルムを未露光のフィルムの前にセットします。望遠レンズで太陽を撮影すれば、鳥の部分がシルエットになって写ります。

 この合成は、暗室作業でもできそうに思いますが、実際にはうまくいきません。鳥の輪郭がくっきり出て、いかにも合成写真という結果になります。
 緑川氏が、実物の太陽と合成したのは、鳥の輪郭にこだわったからです。強い光の太陽の前にリスフィルムを置くことで、光の回り込みが起きます。本当に太陽の前を鳥が飛んでいるような、光でにじんだ輪郭になることを狙ったわけです。

 現在では、こうした合成はコンピュータを使って、比較的簡単にできます。絵心は要りますが、太陽を使って合成するほどの手間はかかりません。
 アナログ写真の時代に、フィルムを使って行なったから価値があるわけです。
 当時は、建物の前の電線を1本消すのに、数十万円掛かりました。アナログの合成写真も、デジタルの合成写真も、いまよりもうんと価値があった時代の話です。
OK キャンセル 確認 その他