2011/01/25(火)花婿の婚礼衣裳

 ドレスコードが日常生活の中で確立していない日本では、結婚式に着る衣装の基準がマチマチです。利用者の無知につけこんで、業者に都合のいいような解釈がされてきました。
 その典型が花婿の衣裳です。

 和装で神前式が主流だったころは、花嫁衣装は白無垢・色打掛でした。挙式には白無垢に綿帽子か角隠し、披露宴では色打掛というのが一般的なスタイルでした。新郎の衣裳は紋服(紋付袴)です。

 1980 年代になると、ウェディングドレスが主流になります。ダイアナ妃の結婚式が引き金になったようです。結婚式場・ホテルは、こぞってチャペルを併設し、需要の取り込みに躍起となりました。
 白無垢・打掛で商売してきた衣裳店も、ウェディングドレスへの転換を余儀なくされます。

 花嫁衣裳のドレス化で、新郎の衣裳も洋服に変わります。当初はモーニングコートが定番でした。ウェディングドレスは教会式の正装です。それと同格のメンズ衣装は、日昼はモーニングコートです。
 当時、モーニングのレンタル料金は、かなり安いものでした。それでは売上アップにならないと、業界あげて新郎用にフロックコートを「復活」させました。

 夜会の正装タキシードも同様です。当初は色を黒からグレーやホワイトに変える程度でしたが、次第にデザインそのものを大きく変えていきます。
 こうして、結婚式で花婿が着る以外には使えないような、特殊なタキシードが幅を利かすようになりました。レンタル料金は、1着約9万円という統計データもあります。モーニングや礼装タキシードでは考えられない価格です。

 晴れの日の正装に対する一般市民の意識がもっと高ければ、こんな展開にはならなかったと思います。もっともらしく「これが常識」と言い放った者の勝ちですね。

2011/01/24(月)フロックコートの復活

 ブライダル業界の思惑で復活した衣裳は、引き振袖だけではありません。代表的なのは、新郎のフロックコートです。こちらのほうが「先輩」です。

 フロックコートは、モーニングコートが現われる前の日昼の正装だったそうです。違いは、上着の前裾がアールカットされているかどうかです。フロックコートはモーニングに取って代わられ、一旦姿を消しました。

 ウェディングドレスが主流になるにつれ、新郎衣裳もモーニングが一般的な服装になりました。ところが、モーニングでは高い料金が取れません。そこで、「親族やゲストとまぎれるといけない」とうまいことを言って、フロックコートを復活させたわけです。
 スボンは縦縞のコールパンツではなく、上着と共生地にすることで、昼夜兼用を謳い文句にしました。昔のフロックコートとは別モノです。

 こうしたブライダル業界の思惑で変化したのは、ほかにもあります。タキシードです。夜会の準礼装だったタキシードは、デザインを大幅に変えた新郎専用のものが主流になりました。
 丈の長いロングタキシードは、フロックコートと見分けがつきません。後ろ姿で、ボタンが2つ横並びに付いていればコートタイプですが、中にはボタンのないフロックコートもあります。

 結婚トレンド調査で、新郎衣装は細かく分類されています。フロックコートの利用者をみると、想像していたよりも少ない数値になっています。
 きっと、どれがフロックコートなのか、利用者自身がわからないんだと思います。きちんと説明できるスタッフも少ないようだし・・・

2011/01/23(日)何でもアリの引き振袖

 白無垢・色打掛で挙式する人が減って、和装は写真撮影だけというパターンが増えました。ひところは、どこの衣裳店も打掛がデッドストックになっていましたが、写真スタジオが引受け先になったようです。

 和装を復活させようと、業界こぞって黒の引き振袖を新規投入しました。白無垢・打掛と違い、洋髪のまま着ても違和感がないのが特徴です。成人式でカツラを被る人はいないから、振袖に洋髪のスタイルは定着しています。
 普通の振袖と違うのは、裾が綿入れのお引き摺りになっている点です。箱迫(はこせこ)・懐剣・末広を打掛同様に使います。

 黒の引き振袖は、元は武家の花嫁衣裳でした。明治時代の写真を見ると、武家を真似たのか、花嫁衣裳は黒が目立ちます。モノクロ写真だから色はついていませんが、トーンからみて赤や青ではなさそうです。柄は少なめで留袖に近い印象です。

 業界こぞって投入した黒引きは、洋髪のままでいける手軽さが受けて、披露宴のお色直しで使われるようになりました。和装も着てみたい花嫁の心をうまく捉えたわけです。
 普及するに従って、黒以外の色も登場します。赤あり青あり黄色ありで、いまでは何でもアリの様相を呈しています。「武家の風習」という謳い文句はどこへやら・・です。

 初婚の平均年齢が上がっているとはいえ、30 前が過半数です。成人式に着た振袖と同じ感覚なんだと思います。婚礼衣裳イコール黒・・という認識はないでしょうね。
 リクルートの結婚トレンド調査では、引き振袖は「黒引き」となっています。この設問では正確なデータは得られないと思いますが、一向に訂正される気配はありません。
 単に「引き振袖」にすれば、利用した数字はもっと高くなるのでは?
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