ドレスコードが日常生活の中で確立していない日本では、結婚式に着る衣装の基準がマチマチです。利用者の無知につけこんで、業者に都合のいいような解釈がされてきました。
その典型が花婿の衣裳です。
和装で神前式が主流だったころは、花嫁衣装は白無垢・色打掛でした。挙式には白無垢に綿帽子か角隠し、披露宴では色打掛というのが一般的なスタイルでした。新郎の衣裳は紋服(紋付袴)です。
1980 年代になると、ウェディングドレスが主流になります。ダイアナ妃の結婚式が引き金になったようです。結婚式場・ホテルは、こぞってチャペルを併設し、需要の取り込みに躍起となりました。
白無垢・打掛で商売してきた衣裳店も、ウェディングドレスへの転換を余儀なくされます。
花嫁衣裳のドレス化で、新郎の衣裳も洋服に変わります。当初はモーニングコートが定番でした。ウェディングドレスは教会式の正装です。それと同格のメンズ衣装は、日昼はモーニングコートです。
当時、モーニングのレンタル料金は、かなり安いものでした。それでは売上アップにならないと、業界あげて新郎用にフロックコートを「復活」させました。
夜会の正装タキシードも同様です。当初は色を黒からグレーやホワイトに変える程度でしたが、次第にデザインそのものを大きく変えていきます。
こうして、結婚式で花婿が着る以外には使えないような、特殊なタキシードが幅を利かすようになりました。レンタル料金は、1着約9万円という統計データもあります。モーニングや礼装タキシードでは考えられない価格です。
晴れの日の正装に対する一般市民の意識がもっと高ければ、こんな展開にはならなかったと思います。もっともらしく「これが常識」と言い放った者の勝ちですね。