2008/06/11(水)モノクロ写真は不滅

 これから写真の世界に入ってくる若い世代が気の毒なのは、モノクロームの銀塩写真を体験する機会が少ないことです。
 暗室にこもって徹夜でプリント・・なんて楽しみは、もう経験できないかもしれませんね。

 好きな写真家の作品で記憶に焼きついているのは、大抵モノクロ写真です。数年前に、品川にあるキヤノンのギャラリーで、石元泰博(いしもとやすひろ)の写真展をやっていました。1950年代のアメリカを表現した「シカゴ、シカゴ」は有名です。

 石元泰博は、バウハウスの流れをくむ造形写真家として知られています。「桂離宮」や「伊勢神宮」を捉えた造形美は、氏の独特の切り口です。「あと1センチでもカメラを動かしてみろ!」といわんばかりの絶妙なカメラアングルと、洗練された構図が好きですね。
 キヤノンのギャラリーで堪能させてもらいました。

 泰博の写真は、ほとんどがモノクロの作品ですが、「曼荼羅」はカラーです。胎蔵界と金剛界の両界曼荼羅を題材に、氏独特の切り口で模写しています。
 当時、「あんなのはただの複写だ!」と揶揄する声もありましたが、写真技術のなかで一番難しいのは複写だということを知らないひとたちですね。

 キヤノンSタワーに来たついでに、ショールームも覗いてきました。当時「エプソンに追いつけ追い越せ」の勢いで力を入れていたインクジェットプリンターが、ズラリと展示してありました。
 説明員のお姐さんに、「染料インクはすぐ退色するからなぁ」と水を向けると、「デジタル画像は不変ですから、色褪せたらもう一度刷り直してもらえば元の鮮やかさが甦ります」との返事でした。
 さすがに一流企業の説明員は、よく教育されてますねぇ。

 数十年の歳月を経て、色褪せることもなく飾られていた石元泰博のオリジナルプリントを見たあとだけに、デジタルプリントのはかなさを痛感しました。
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