2010/12/25(土)衣桁がけの撮影

 着物の展示会で見た振袖の写真は、カタログ用みたいな撮影の仕方でした。着物は少ロッドだから、一般的にはメーカーのカタログというのはありません。業者間の取引は、あくまで現物主義です。
 最近流行りのブランドものは、量産品だからパンフレットやポスターがありますが・・・

 着物の写真撮りをするのは、小売店のパンフレットや広告チラシ用がほとんどです。チラシの写真は撮り方がラフです。参考になる写真は少ないですね。
 きちんと撮影されているのは、デパートの商品写真です。呉服屋出身のデパートが多いせいか、着物に力を入れているところが目立ちます。

 「酸化セリウム」の先生は、東京時代に着物を撮影していました。デパートによって「型」が決まっているそうです。
 衣桁の掛け方から襟の立て方まで、決まりどおりにしないと再撮になるので、事情がわかっているチームが担当します。先生の担当は、松○屋でしたかね。

 床にコンパネを張って、その上にスクリーンを敷き、着物の裾を虫ピンで止めていきます。きれいなイカ形にするためです。
 襟は型紙を裏から仕込んでピシッと立てます。襟を立てないデパートもあるそうです。この辺はクライアントによって違うんだとか・・・

 バックグラウンドライトを入れる場合は、着物の裏に黒ケント紙を仕込みます。照り返しで着物が透けて見えるのを防ぐためです。裏地を入れてない仮仕立の着物は、これをしないと再撮間違いなしです。
 お中元などの置き撮りと違って、一品ずつセットしないといけないから、手間と時間が掛かります。

 こうしたテクニックは、呉服店グループ相手の写真セミナーの際に役に立ちました。自店の広告写真を自前で撮影して、経費を節減しようという集まりです。
 簡単に撮れると安易に考えていた人たちには、よい刺激になったみたいです。

2010/12/24(金)額入りの振袖の写真

 呉服屋の社長に連れられて、着物の展示会に行ったときの話です。一般向けではなく、業者相手の展示会でした。衣桁がけした高級品のほかに、床の上に積み上げた山がいくつも並んでいました。低価格の普及品です。

 振袖もたくさん並んでいました。聞いたら山ごとに値段が違うそうです。一番端のものは、素人目にもパッとしない柄でした。生地のランクも違うんでしょうね。ひと口に正絹(しょうけん)といってもいろいろあります。

 真ん中あたりの山を指差して、「なんぼ?」と価格交渉です。社長が電卓に希望価格を打ち込んで、担当者にチラッと見せます。昔なら五つ玉のソロバンでしょうが、いまはこの業界でも電卓です。
 「いくらオールでも3万円では…」と渋い反応です。えっ、3万円??、そんなレベルなの?
 すったもんだした挙句、1着3万5千円で手を打ったみたいです。未仕立とはいえ、まとめて買えば結構安くなるもんですね。端っこの山は、一体いくらなんでしょう?

 「端っこのなら2万5千円でいけるだろうね」と社長。売れ筋でないのは、いくら安くても買わないんだそうです。筋のいいのをいかに安く手に入れるかがミソなんだとか・・・
 「ほかの業者では5万円以下にならないはずだ」と、自慢げに話してました。この世界では「顔」みたいです。

 衣桁がけの高級品には、額入りの写真が一緒に並べてありました。振袖の商品写真です。カメラマンを雇って撮影したみたいで、カタログ写真の撮り方でした。
 買ってくれたお客さんに、プレゼントするために作ったそうです。この着物は1点物なんだよ・・という格付けですね。「交通整理」の対象品です。

 「山積みのほうには付きません」と担当者が断りを入れていました。山積みの品は、どのエリアに何着卸そうと自由だそうです。「1点物」ではないということですね。

2010/12/23(木)一点物の着物

 呉服の世界では、よく「一点物」という言葉を耳にします。文字どおり1点しかない着物という売り文句ですが、本当に1枚しかこの世に存在しないかというと、はなはだ怪しい話です。

 染物の和服は、一柄を何枚かまとめて作ります。振袖なら一染め 10 枚、二尺袖(小袖)は確か 12 枚だったと思います。この時点ですでに一点物ではないはずですが…
 これにはカラクリがあって、同じエリアで2着ダブらないように、卸元が「交通整理」を行なっています。その商圏では他店で入手できないから一点物で通るわけです。

 懇意にしている呉服屋の社長は、「あなたが 10 着全部を受ければ、その着物のメーカーだと名乗ってもいい」と言ってました。そんなに買っても売る先がないから例え話ですが、その社長はまとめ買いをしているみたいです。
 業者向けの展示会で、積んである着物を「オール!、オール!」と指差しながら、とことん叩くんだとか・・・

 一度の商談で全部売れれば、製造元も折れて安くします。それを仲間に「交通整理」しながら卸し、利ざやを稼ぐビジネスです。お金の要る商売ですね。
 柄違いで1着ずつ買っていたのでは安くなりません。資金力のあるところが頭になってまとめ買いし、仲間で分けるやり方が定着しました。呉服業界には、こうしたグループがいくつもあります。

 不況感からか、大量に見込み生産するところが減っているそうです。売れる分しか作らないのが最近の風潮なんだとか・・・
 「オール!」と叫んでも乗ってくるメーカーがなくなって、商売がやりづらくなったと、そこの奥さんはボヤいてました。きっとダンナの元気がなくなったんでしょうね。
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