呉服屋の社長に連れられて、着物の展示会に行ったときの話です。一般向けではなく、業者相手の展示会でした。衣桁がけした高級品のほかに、床の上に積み上げた山がいくつも並んでいました。低価格の普及品です。
振袖もたくさん並んでいました。聞いたら山ごとに値段が違うそうです。一番端のものは、素人目にもパッとしない柄でした。生地のランクも違うんでしょうね。ひと口に正絹(しょうけん)といってもいろいろあります。
真ん中あたりの山を指差して、「なんぼ?」と価格交渉です。社長が電卓に希望価格を打ち込んで、担当者にチラッと見せます。昔なら五つ玉のソロバンでしょうが、いまはこの業界でも電卓です。
「いくらオールでも3万円では…」と渋い反応です。えっ、3万円??、そんなレベルなの?
すったもんだした挙句、1着3万5千円で手を打ったみたいです。未仕立とはいえ、まとめて買えば結構安くなるもんですね。端っこの山は、一体いくらなんでしょう?
「端っこのなら2万5千円でいけるだろうね」と社長。売れ筋でないのは、いくら安くても買わないんだそうです。筋のいいのをいかに安く手に入れるかがミソなんだとか・・・
「ほかの業者では5万円以下にならないはずだ」と、自慢げに話してました。この世界では「顔」みたいです。
衣桁がけの高級品には、額入りの写真が一緒に並べてありました。振袖の商品写真です。カメラマンを雇って撮影したみたいで、カタログ写真の撮り方でした。
買ってくれたお客さんに、プレゼントするために作ったそうです。この着物は1点物なんだよ・・という格付けですね。「交通整理」の対象品です。
「山積みのほうには付きません」と担当者が断りを入れていました。山積みの品は、どのエリアに何着卸そうと自由だそうです。「1点物」ではないということですね。