2009/08/04(火)ズームはメタボなレンズ

 この間、標準レンズの焦点距離を話題にしてきて、なんでそんなことに拘るのか不思議に思われた人もいるでしょう。ズームレンズを使えば、標準レンズが何ミリか?なんてのは、どうでもいいことのようにも思えます。

 本当にそうでしょうか?
 135換算で 50mm を含むズームレンズを持っていれば、標準レンズが 50mm であるかないかは、大した問題ではないように考えがちです。でも、ある被写体を同じ大きさで撮るとき、何ミリで撮っても結果は一緒でしょうか?

 ズームの最短側で撮ったときと、最長側で撮ったときでは、被写体の形状や背景の描写が大きく変わります。何ミリの焦点距離で、どの位置から撮るか・・事前に考えてから撮影する習慣を身につけている人は、意外に少ないのが現実です。
 大抵は、自分が動かずに、その場でズーミングして画角を決め、そのまま撮影する人が多いようです。ズームレンズは便利な反面、ズボラでメタボなレンズでもあります。

 あるメーカーの統計データによると、ズームレンズの使用焦点距離は、最短と最長に偏る傾向があるそうです。28-70mm のズームだと、28mm と 70mm の使用頻度が高いことになります。
 28-300mm や 18-200mm の高倍率ズームで両端・・というのは、どうかと思いますが、両端が最も変化が大きく、刺激が強いことは事実です。

 高倍率ズームが登場する前は、ズームレンズはオールマイティーではなく、ある焦点距離を中心に前後にゆとりがあるレンズ・・というのが常識でした。35-70mm は、あくまで 50mm の標準レンズ代わりでした。
 28-135mm は中望遠を基準にしたズームで、単焦点の 28mm とは別物でした。ワイドレンズで多用する近接撮影能力に欠けていたからです。ワイド側は風景写真くらいにしか使えませんでした。

 最近の高倍率ズームは、最短撮影距離も短くなり、こうした図式は当てはまらなくなっています。タムロン AF28-300mm F3.5/6.3 XR [A20] は、全焦点域に渡って最短撮影距離は 49cm です。135フルでも APSC でも使えます。APSC 専用の 18-270mm も最短 49cm です。
 撮影者は、ますます体を使わなくなり、メタボリック症候群になりそうですね。ついでに頭の中も・・・

2009/08/03(月)視覚に近い焦点距離

 元祖ライカの御威光で、標準レンズは 50mm と決まった135サイズですが、それ以外のフォーマットでは、標準レンズが何ミリとは決められていない・・というのが定説です。

 ブローニーフィルムを使う中判カメラは、送り幅によって画面サイズが変わります。6x4.5、6x6、6x7、6x8、6x9cm の他に、パノラマサイズの 6x12、6x17cm もあります。対角線の長さを基準にするのは、無理がありそうです。

 シックス判(6x6cm)は、縦位置・横位置にトリミングすれば、セミ判(6x4.5cm)と同じ・・という捉え方もあります。一般的には、セミ判の標準レンズは 75mm、シックス判の標準レンズは 80mm が多いようですが、決まりがあるわけではありません。

 6x7、6x9 サイズのカメラは、集合写真によく使われました。天地よりも横方向にどこまで入るかが重視されます。ワイドレンズが 135 換算で何ミリに相当するかは、対角線ではなくて、長辺の画角を基準にしたほうがわかりやすいと思います。

 シノゴ(4x5インチ)の標準レンズが 150mm というのは、対角線の長さを基準にしています。どちらかというと、アマチュア向きの説明です。
 ブツ撮りをやっているプロで、150mm が標準レンズだと思っている人は、まずいないと思います。150mm では商品の形が歪みます。人間の視覚よりもワイドなレンズです。

 シノゴの権化、「酸化セリウム」の先生が愛用していたブツ撮り用レンズは、「ニットー」すなわち 210mm です。標準より少し長めの焦点距離がいい・・とか言っていたから、180mm あたりがシノゴの「標準レンズ」なのかもしれません。
 短辺と長辺のどちらを重視するかで、意見がわかれそうですが、面積比を基に計算すると、135判の 50mm は シノゴでは 約190mm となります。微妙ですね。

2009/08/02(日)大口径の標準レンズ

 いまとなっては誰も疑うことはない、135サイズの標準レンズが 50mm という基準は、誰がいつ決めたのでしょうか?

 ライカ判の元祖ライカA型のレンズが 50mm F3.5 だったから・・という説が有力です。あとに続くメーカーが、それを真似したので、50mm が定着した・・という言い分です。(なるほど)

 ライカLマウントの規定は、口径 39mm、フランジバック 28.8mm、標準レンズ 51.6mm となっています。バヨネット式のMマウントになっても、標準レンズの焦点距離は、51.6mm のままでした。

 A型ライカの実物を見たことはないけど、たぶんレンズには「5cm」という表示がされていたと推察します。51mm でも 52mm でもない 5cm です。
 もしドイツがメートル法ではなく、インチを使っていたなら、2インチ(=50.8mm)という表示になっていたはずです。
 24×36mm のフォーマットで、焦点距離 51.6mm というのは、レンズ設計上の都合があったからだと、私なりに勝手に解釈しています。

 手元にあるプラナー T* 50mm F1.4 AE は、正確には 51.8mm です。これはツァイスの基準によるものです。
 一眼レフが登場してから、フランジバック(マウント面とフィルムの距離)は 44mm ~ 48mm と長くなります。ミラーボックスの関係です。
 当時の標準レンズには、50mm よりも長い焦点距離のものがありました。55mm や 58mm といったレンズがあったのは、バックフォーカスの制約で、ダブルガウスタイプの 50mm を作るのは難しかったからだと言われています。
 そんな制約のなかでも各社は、標準レンズの大口径化にシノギを削りました。

 PENTAX が、スクリューマウントからバヨネット式のKマウントに変わったあとで、50mm F1.2 という大口径レンズが発売されました。当時 F1.2 で 50mm という焦点距離のレンズはありませんでした。他社は 55mm ~ 58mm です。
 開口径 42mm のスクリューマウントのままでは、50mm F1.2 のレンズは作れなかったそうです。Kマウントがいかに大口径で優れているかを自慢していた人がいました。(レンズ設計って、そういうものなんですね)

 レンズ設計者の意地や拘りに支えられ、焦点距離 50mm が135判標準レンズの「不動の地位」を守り通すことになりました。
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