2009/09/21(月)陶板写真と銀塩素材

 前回話題のモノクロ感光乳剤(アートエマルジョン)をタイルに塗って、擬似的に「陶板写真」を自宅の暗室で作ることができます。定着・水洗をきちんとすれば、白黒銀塩素材だから変退色に強い写真画像が得られます。

 本物の陶板写真と違うのは、表面に保護加工をしないと画像が削れてしまうことです。また、高温で焼成した画像ではないから、火災での損傷は免れません。
 結婚式の写真を記念として残しておくなら、どちらの方法が適しているのでしょうか?

 半永久に保存したいのなら、セラミック焼成した陶板写真に軍配が上がります。焼き物の絵柄と一緒で、熱・水・摩擦に強いのが特長です。
 欠点は、写真画像がやや甘いこと、そして価格が高いことです。10cm角タイルで数千円かかります。

 アートエマルジョンは、モノクロ感光乳剤なので、カラー写真にしたいのなら、陶板写真か別の方法になります。
 陶板写真のほかには、インクジェットプリンターで印刷した画像をTシャツやマグカップなどに転写する方法があります。熱をかけて転写しますが、摩擦や火災に対しては、陶板写真ほど強くありません。
 マグカップへの転写には、特殊インクのプリンターと専用の加熱器を使います。システム一式の価格が高いので、個人で購入するのは無理でしょう。

 業務用システムとは別に、「アイロンプリント」という呼び名で、転写用の専用紙が市販されています。家庭にあるインクジェットプリンターで出力してから、切り抜いてアイロンで転写します。
 もっぱらTシャツなど布素材に転写することを前提にしています。

 永遠の愛を記録として残すなら、誰しもセラミック焼成の陶板写真が一番適していると思うでしょう。でも、実際に二人の関係が永遠に続くとは限りません。
 キズがつかないように、落として割らないように、二人で注意しながら守っていく・・・アートエマルジョンのほうが、人生に通じるものがあるような気がします。

2009/09/20(日)アートエマルジョンの活用

 FUJIFILMのモノクロ感光乳剤、アートエマルジョンを使った写真展を見たことがあります。アマチュア写真家ではなく、地元の職業写真家の手によるものでした。

 単に紙に塗布してプリントするといった、単純なものではありませんでした。和紙にプリントして行灯に仕立てたり、ミニ屏風仕立にしたりと、立体的な作品が多かったのが特徴でした。
 新しい素材を活用するお手本としては、参考になりました。

 アイデアとしては悪くないし、写真を二次元から三次元的な表現に持っていったのは、意欲的だと思います。ただ、アイデアを優先しすぎて、映像作品としての趣きに欠けていた感がありました。
 遊びやパロディーならいいけど、プロによる写真的表現としては、いささか はしゃぎすぎだったように思います。

 巨大キャンバスに挑戦して、ドンキホーテになった「酸化セリウム」の先生は、発案者が現代アートの芸術家だったのが、ラッキーでした。写真家の誰しもが目指す「きちんとした現像処理」が、アーティストにとって何の価値もないことを身をもって体験することができたのは、貴重な経験です。

 手作りの感光材料は、どこか陶芸に通じるところがあります。作者の予期しない、灰などの自然釉のいたずらを愛でたり、一見失敗と思えるアクシデントが作品に深みを与えたりするのと、よく似ていると思います。
 地元の写真家が開いたアートエマルジョンの作品展に、アイデアやテクニック偏重の匂いがしたのは、こうした予期せぬ「失敗」の要素がない、優等生の作品だったせいかもしれません。

 アートエマルジョンの使用にあたっては、いくつかのコツがあります。実際に挑戦した人のテクニックを参考にしながら、偶然の「失敗」を愛でる心のゆとりを忘れないようにしたいですね。

アートエマルジョンの実用法はコチラを参照

2009/09/19(土)モノクロ印画紙を作る

 感光材料は工業生産品です。自分でフィルムや印画紙を作ることは、難しいというか、不可能に近いと思われています。
 モノクロの感光乳剤で「アートエマルジョン」という製品が、FUJIFILMから出ています。紙や固形物に塗って乾かせば、印画紙の代わりになります。これなら、自分で感光材料を作ることができます。

 まともな印画紙を作るのには適していません。市販の印画紙のほうが、安くて均質できれいなプリントができます。アートエマルジョンは、作品向けの感光材料です。
 紙にハケで塗ると、塗りムラが出て面白い表現になります。和紙に塗布してプリントしてから、扇子や提灯などに加工することも可能です。ベースの素材によっては乳剤が馴染まなかったり、あとで剥離したりするので、下塗り剤が別売で用意されていますが、万能というわけではありません。

 本物の乳剤だから、作業はすべて暗室で行ないます。コロジオンの湿板写真と違って、乾かしてから露光するというのが、長所でもあり欠点でもあります。一旦暗室から出る必要があるからです。(それとも乾くまで気長に待つか・・・)

 このアートエマルジョンを使って、巨大なキャンバスにモノクロプリントした人がいます。例の「酸化セリウム」の先生です。依頼主は、発案者の現代アート作家でした。この人の作品づくりのお手伝いです。
 壁一面にもなるキャンバス地に、乳剤を塗布するのは至難の技です。試しに、小ぶりのキャンバスにテスト的に塗ったところ、壁に貼った状態では、乳剤が重みで垂れることが判明しました。巨大キャンバスなら悲惨なことになりそうです。

 乾かしたあとで、どうやって露光するかも難題です。引伸機は使えないから、素材を壁に貼って、スライドプロジェクターで作家の原稿を投影することになりました。露光時間のテストをどうするか・・難問が続きます。
 現像・定着液はハケ塗りで何とかなるとして、水洗がきちんとできません。近くに洗えるような川はないし・・・
 結果は、現像ムラ・定着ムラで、惨憺たるものだったそうです。しかも展示中に作品の状態が刻々と変化します。水洗不良です。QWを使ってもカバーできなかったみたいです。

 失敗に見えたこの「作品」は、現代アートの作者から絶賛されたと言います。塗りムラに加えて、現像・定着ムラによる独特のテクスチャーや、とくに展示中に変色が徐々に進行したことが、絵の具では得られない素晴らしい結果との評価でした。

 徹夜して作りあげた思い入れでしょうか? それにしても、現代アートの芸術家って、相当 変わってますね。
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