2011/03/10(木)アイピースも大事な要素

 望遠鏡の見え味は、対物レンズや主鏡の性能に大きく左右されますが、もうひとつ大事な要素はアイピース(接眼レンズ)です。
 市販の天体望遠鏡セットには、必ず何本かのアイピースが付属しています。低価格の普及品は、とりあえず見える程度のものが付いているだけです。何本ついているかは、ほとんど意味がありません。

 昔はアイピースの種類が少なく、ハイゲンス(H)、ミッテンツェーハイゲンス(MH)、オルソスコピック(OR)、ケルナー(K)くらいでした。レンズ構成の名前で、カメラ用レンズのガウスタイプやテッサータイプみたいなもんです。

 普及品の望遠鏡には、大抵 MH タイプのアイピースが付属していました。廉価品だとハイゲンス(H)のことも・・・
 H タイプは、太陽を投影するのに使えたから、ムダにはなりませんでした。MH はバルサムで貼り合わせてあるので、太陽観測は不可です。熱でやられます。

 惑星などを拡大して撮影するようになると、高品質なアイピースが欲しくなります。MH は順次オルソに買い換えました。低倍率の眼視用はケルナーです。エルフレというのもありました。視野が広いタイプです。

  30 年ほど前にテレビュー社から出たナグラーは、それまでのものとは全く違いました。視野が広いだけでなく、見え味は抜群でした。ナグラーというと名倉さんが設計したように思いがちですが、アル・ナグラー氏の設計です。
 ナグラーは、一般的な 24.5mm 径スリーブではなく、31.7mm 径のアメリカンサイズでした。評判を聞いて使いたくても、当時の日本の望遠鏡には填まりません。しかも一眼レフ用の交換レンズが買える値段でした。

 これを契機にアイピースは一気に高級化します。望遠鏡本体の接眼用スリーブも 31.7mm 径が主流になりました。そうしなければ売れない情況になったからです。2インチサイズ(50.8mm 径)のものまで登場しました。

 天体望遠鏡の販売をやめた PENTAX や Nikon でも、アイピースだけは継続して販売しています。数本揃えるだけで、ちょっとした望遠鏡が買える金額になります。やめないところを見ると、光学メーカーにとっては、おいしい商品みたいですね。

2011/03/09(水)小口径でも高性能

 天文に興味のある人は、大口径の望遠鏡に憧れるものです。口径が大きいほど暗い天体が見え、分解能が高いとされているからです。観測専門の天文台には、メートル級の大口径望遠鏡が据えてあります。

 天体観測は極限の状態で使うから、光学系の良し悪しや精度の違いで見え味が変わります。大口径になるほど精度が出しにくいので、小口径のほうがシャープできれいに見えることがあります。ただし、倍率を限度内に抑えれば・・の話です。

 PENTAX の天体望遠鏡は、既に販売終了になっていますが、性能には定評がありました。とくに 75ED-HF は、小口径ながら抜群の見え味でした。口径 75mm 焦点距離 500mm の屈折式です。

 当時の屈折式は、2枚合せのアクロマートか、3枚合せのアポクロマートかという分類でした。アポのほうが色収差が抑えられています。
 75ED-HF は、カメラメーカーらしく、特殊低分散ガラス(ED)を採用していました。F6.67 と明るい割に、色収差がほとんどないのが特長でした。

 並の口径 100mm 超の望遠鏡よりもよく見えました。しかも 500mm の望遠レンズとしても使えました。一般的に、眼視用と撮影用では、求められる性能が違います。二刀流でいけたのも人気の理由でした。

 後に発売された 100ED-UF は、口径 100mm 焦点距離 400mm でした。明るさは F4 です。ずんぐりした形から「ツチノコ」の愛称で呼ばれていました。
 こちらはもっぱら撮影用です。イメージサークルが大きかったので、中判カメラの望遠レンズとしても使われたようです。ただし絞りは開放のままです。

 最終モデル 75ED-HFⅡ は、2年ほど前に製造をやめましたが、いまでは各社から特殊低分散ガラスを使った望遠鏡が販売されています。
 屈折式を買うなら、小口径でもこのタイプがお奨めです。

2011/03/08(火)光学製品のまやかし

 市販の天体望遠鏡の性能表示は、屈折式(レンズ)か反射式(鏡)かのほかに、極限等級や分解能などが数値で書かれています。口径 100mm のものは、3万円のものでも 10 万円のものでも同じ数値です。
 どこか変ですね。表示されているのは、あくまで理論値で、実際にきちんと見えるかどうかは別の話です。

 一般消費者が望遠鏡を買うときに基準にしているのは、口径よりも倍率みたいです。何百倍まで拡大できるかで機種選定している人が多いと思います。
 倍率は、[主レンズの焦点距離]÷[接眼レンズの焦点距離]で求められます。接眼レンズの焦点距離を短くすれば、小口径のものでも高倍率が得られます。ただし、一定の倍率を超えると、次第に暗くなってボケていきます。

 一般的に、倍率の限度は主口径(mm)と同数とされています。口径 60mm の望遠鏡なら 60 倍が限度ということになります。
 実際には、木星や土星など明るい惑星では、多少ぼやけてもいいから大きく見たいときがあります。口径(mm)の2倍程度までを有効倍率とするのが普通です。60mm なら 120 倍までです。

 ところが市販の望遠鏡は、バローレンズなどを併用して、口径 60mm の望遠鏡でも 200 倍以上の表示をしています。もうボケボケですね。
 では、高倍率にするために、口径が大きいものにすればいいかというと、今度は精度の問題が出てきます。安物の望遠鏡に手を出すとハマリます。

 双眼鏡でも事情は同じです。さすがに有効倍率を超えるようなものはありませんが、高倍率のものは手持ちではブレて見られません。申し訳に、安物の三脚とセットにして売っているのは、まだマシなほうかもしれませんが・・・

 双眼鏡で一番ごまかしが利くのは、外から見えないプリズムです。ツァイス型の三角プリズムだと、対物レンズをカバーしない小さなものを使っている製品が多く出回っています。手に持ったときに見た目よりも軽く感じたらこれですね。
 ガラスにも種類があるし、光学製品を買うときには、ある程度の基礎知識が必要です。
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