2010/08/31(火)複露光の増感効果

 銀塩素材が主流の時代には、様々な方法で実効感度を上げる試みがなされました。増感現像ではなく、前処理で水素増感する話を前回取りあげました。
 このほかに、複露光という技法があります。感光材料が被らない程度の弱い光を全面に当てるやり方です。

 画像が出る寸前まで光を当てておけば、あと少し光を当てるだけで画像が形成されます。少ない露光で済むから、実効感度が上がったように見えます。
 この方法は、実際には感度を上げるためではなく、コントラストを下げるために使われました。ハイライトとシャドーの濃度差を縮める効果があったからです。

 モノクロプリントは、標準の3号紙以外に、軟調の2号や、硬調の4号を使い分けることで、適正な印画が得られます。
 いまでこそ、バリグレードやマルチグレードという、フィルター操作でコントラストを調整するタイプがありますが、昔はそんな便利なものはありませんでした。
 1種類の印画紙で、硬軟使える方法として、複露光方式が採用されていました。

 サービス判を量産する明室型の自動プリンターは、ロールの印画紙を使います。いちいちマガジンを交換して印画紙の号数を変えていたら、作業効率が落ちます。
 そこで、一番硬調な4号ロール紙をマガジンに装填しておいて、複露光で軟調仕上をしていました。ハイライト側の濃度を持ち上げて、コントラスト比を下げるやり方です。

 複露光方式のプリンターで焼かれたプリントは、お世辞にもキレイと言える仕上りではありませんでした。全体が被ったような締まりのない写真です。
 1コマごとに印画紙の号数を変えて焼いた、手焼きのプリントのほうがキレイでした。モノクロ写真の命は、「黒の締まりと白の抜け」です。

 「手焼き」のほうが高級感があるのは、写真もせんべいも同じですね。焼く職人さんの技術にもよりますが・・・

2010/08/30(月)フィルムの水素増感

 フィルムの感度を上げる方法は、いくつかあります。露光中のフィルムをマイナス数十度に冷却する方法は、天文台クラスの天体撮影では、昔から行なわれていました。露光中は、温度が低いほど感度が高くなります。

 露光後に増感現像するのが一番簡単な方法ですが、粒状性が悪くなるのと、カラーバランスが崩れたり、コントラストが高くなりすぎたりして、画質の劣化が悩みの種でした。
 現像処理で感度を上げるのではなく、前処理でフィルム自体の実効感度を上げる方法に、水素増感というのがあります。

 ホーミングガス(水素)に一定時間さらすと、実効感度が飛躍的に上がります。液体窒素で冷却するよりかは、簡単な方法です。
 簡単といっても、かなりの手間が掛かります。真空ポンプで密閉容器の空気を抜いてから、窒素ガスを注入し 45~50℃で数十時間、前処理をします。次に、水素と窒素の混合ガスを注入し、45~50℃で数十時間(3日以上)水素にさらします。

 天体写真では、モノクロフィルムは Kodak のテクニカルパンが定番でしたが、カラーフィルムでも有効な技法です。一般撮影に使うことも可能ですが・・・
 前処理とフォーミングガスにさらす時間が長いので、最低でも4日間ほど掛かります。処理後のフィルムは、窒素ガスで満たした密閉容器に入れ、冷凍保存が原則です。ここまで面倒だと、一般撮影のために水素増感する人は、まずいないでしょう。

 水素増感をするための機材は、天体観測機材を扱っている専門店で入手可能でした。水素増感処理したフィルムを売っている店もありましたが、最近はどちらも目にしなくなりました。
 デジタル化も一因ですが、テクニカルパンが製造中止になったからだと思います。

2010/08/29(日)冷却CCDカメラの自作

 天文愛好家のなかには、冷却 CCD カメラを自作する人がいます。CCD や基盤を自分で組みたてて作るのは、かなりの強者です。
 天体写真を撮るときによく使われるのが、ローパスフィルターを外したデジタル一眼レフです。改造機ですね。これにペルチェ素子を貼り付けて、撮像板を冷却する人もいます。

 Nikon D700 を改造するのは勇気が要るし、もったいない気がします。D700 を潰すつもりなら、その予算で普及型の冷却 CCD カメラが手に入ります。
 一般的には EOS Kiss の中古品がよく使われているようです。中古なら価格も手頃だし、Kiss シリーズはよく出回っています。

 ローパスフィルターを外すと、交換レンズで無限遠にピントが合わなくなります。平面ガラスでも屈折光路に配置すると、合焦位置が変わるからです。レフレックスレンズのリアフィルターと同じですね。
 同じ厚みのHα透過フィルターを組み込むことで、交換レンズが使えるよう、改造を請け負っているところがあります。改造費が数万円掛かります。

 望遠鏡の直焦点で数十分の露光となると、自動追尾装置付のかなりしっかりした赤道儀が必要です。普通の天文愛好家は持っていないでしょう。
 改造したデジイチに交換レンズを装着してガイドするのが、最もポピュラーな撮影方法です。小型の赤道儀でも 200mm 程度の望遠レンズなら使えます。

 それをペルチェ素子で冷却すれば、ノイズの発生を抑えて露光時間を長く取れます。ペルチェ素子の裏側は、かなり熱くなるので、放熱対策は必須です。
 フィルム時代でも、露光中のフィルムを液体窒素などで冷却していましたが、あれは温度が低いほど実効感度が高くなるからです。ノイズ軽減のためではありません。
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